あらすじ
旅行雑誌の記者・速見卓は、ある仕事で仁徳天皇陵の近くにそびえる二上山を登る。そのとき、 風のような速さで山路を行く女性に目を奪われる。彼女の正体を調べていくうちに、ある宗教団体の存在を知り、歴史の暗部に迫っていくことに……
五木寛之ってどんな人?
1932 年、福岡県生まれ。終戦後に平壌から引き上げる。早稲田大学第一文学部ロシア文科を中退後、1966 年に『さらばモスクワ愚連隊』で作家デビュー。直木賞や吉川英治文学賞などを受賞し、評論家や作詞家、作曲家としても活躍する。

国家の成り立ちを振り返る契機に
灘中学校・高等学校の大森秀治先生が「多彩な切り口から楽しめるところがおもしろい」と勧めるのは、五木寛之氏が1984年に発表した『風の王国』。山奥と人里を行き来して暮らす”流民”を題材にした物語です。「この作品では主人公をはじめとした〝歩く人”が数多く登場し、『歩く』という営みや自然の大切さが述べられています。その一方で、一流ブランドの車やフットギア(履物)なども紹介され、最先端の流行とアンチ文明の両方を取り上げている点が興味深いです」 本作には歴史やアウトドアのほかに、地理、思想、経済など多岐に渡る要素が盛り込まれており、「どの部分に興味を持っても楽しめる」と大森先生は話します。「本作に登場するブランドの車やフットギアは実在するのか、なぜ一流なのかを調べてみるのも楽しみ方のひとつ。そこから子どもの興味が広がるかもしれません。読者の関心に応じて、さまざまな影響を与えてくれるでしょう」

否定語から可能性を見い出すことができる
『風の王国』には、実在の地名が数多く登場し、社会が好きな子どもを惹きつける魅力を秘めています。「大阪府羽は曳びき野の市に位置する竹内街道や堺市にある仁徳天皇陵(大仙陵古墳)、奈良県葛城市の二上山などが物語の舞台になっています。地理的な関係を理解することで、興味が沸いてくるのではないでしょうか」 さらに、日本史に関わる部分も多く、歴史の流れや国家の成り立ちを理解するヒントを与えてくれます。「本作には、”流民”たちが立ち上げた『天武仁神講(てんむじんしんこう)』という宗教団体が登場します。主人公がこの団体との関わりを深めていく過程で、大和朝廷の時代、明治時代、第2次世界大戦後という3つの時代が解説されます。そして、新しい国家の成り立ちに秘められた歴史の暗部が少しずつ明らかになっていくのです」 その闇の部分は、江戸時代から明治時代へ世の中が大きく変わるときに整備された中央集権体制とも関係しています。「新政府は廃藩置県を行い、戸籍制度を定めました。その際、定住地を持たなかった”流民”も、戸籍制度の枠組みに取り込まれます。彼らは自由を守るために天武仁神講を立ち上げ、独自の文化を継承していくのです」 天武仁神講は、五木氏が創作した架空の団体です。 しかし大森先生は、「歴史の分岐点には、国を治める側と治められる側、それぞれのストーリーがあったはず」と語ります。「本作を読んで、”時代の犠牲になった人たちがいたのかな?”と思いを馳せてみるのもいいですね」 物語の後半に差し掛かると、第2次世界大戦後の”流民”たちの歩みが紹介されます。「天武仁神講は戦後、ふたつの勢力に分かれます。その一方の勢力で中心的役割を果たしているのは、ビジネス界で成功した人物。この部分から、今の世の中には経済の動きが常に関係している事実を感じ取ってほしい。今日の社会は、大きな戦争と戦後の経済成長を経て築かれたことに気づいてもらうだけでも、この小説を読む価値はあると思います」

何回も読み直して想像力を育む 
『風の王国』は3部構成の長編作品で、登場人物たちの人間関係が複雑です。そのため、多くの小学生はハードルが高く感じるかもしれません。「しかし、自分の頭で理解できる部分を読むだけでも、何かが得られると思います。また数年後に読み返すと、最初に読んだときとは質の違う感動を味わえるのではないでしょうか? 何歳になって読んでも感動させてくれる本、それが良書だと私は考えます」 そして最後に、読書の醍醐味について、次のように語ります。「ひとりの人間はひと通りの生き方しかできませんが、本を読むことで何百通りもの生き方を追体験できます。さらに小説では、実際には存在しないけれど、あり得たかもしれない世界を味わうことができます。私たちはつい同じ枠組みの中で物事を考えてしまいがちで、それが閉塞感を招く一因でもあるのです。文字だけで表現された小説の世界に触れて、イマジネーションを豊かにして視野を広げてほしいと思います」


『吉里吉里人』(上)(中)(下)

井上ひさし【著】
85 年刊/新潮社/各746円(※写真は上巻)

東北のある寒村が突如「吉里吉里国」として、日本国家からの分離独立を宣言。新国家の誕生に混乱する社会の様子を描きながら、日本が抱える数々の問題に切り込んだ歴史大作。日本SF大賞、読売文学賞を受賞。

『邪宗門』(上)(下)

高橋和己【著】
93 年刊/朝日新聞出版/各966円(※写真は上巻)

新興宗教団体「ひのもと救霊会」で、社会の変革を目指す人たちを描いた群像劇。社会的弱者の期待を背負いながらも、次第に政治的対立を深める団体の変遷から、理想と現実の難しさを読み取ることができる。

『日本三文オペラ 改版

開高健【著】
11年刊/新潮社/ 540円

大阪の旧陸軍の敷地に散らばる大砲や戦車などの鉄材に目をつけた泥棒集団「アパッチ族」。抜群の組織力を生かして獲物に迫る様子を、躍動感のある筆致で綴る。

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