親の愛情を独占し情緒が安定する
国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、2002年までは3人以上の子どもを持つ家庭が全体の3割近くを占めていました。しかし、少子化の影響もあり、2010年には2割台に減少。一方、一人っ子の家庭は、2005年頃から増加傾向にあります。
「しかし、兄弟姉妹がいる家庭で育った大人が多いせいか、一人っ子に対してマイナスなイメージを持つ人も少なくありません。そんな世間の声を気にして思い悩む親が多く、私のところにもよく相談が寄せられます」(諸富氏)
しかし諸富氏は、「"一人っ子はわがまま"などといった固定観念を科学的に証明した研究はない」と力説します。
「仮に兄弟姉妹がいない子どもに、わがまま・マイペースといった特徴が見られたとしても、それは同年代の子どもと触れ合う機会が少ないという『環境』が大きな原因であり、性格の問題ではありません。親の工夫次第で協調性や社会性を伸ばすことはできます」
子どもをサポートするときは、一人っ子の弱みや苦手分野だけでなく、長所にも目を向けることが大切です。
「たとえば一人っ子は、家では常に親、つまり大人と一緒に過ごしています。その影響から、大人や年上の子どもとのやりとりに長けているという傾向が見られます。目上の人に気さくに話しかける態度が、ときには"生意気"とか"ませている"といった印象を与える場合もあるかもしれませんが、決して短所ではありません」(諸富氏)
ほかにも一人っ子のメリットはいろいろとあります。国際基督教大学の磯崎三喜年氏は、「兄弟姉妹がいないため親の愛情を独り占めできる」と話します。
「それにより、子どもは"自分は大事にされている"という実感を持ちやすく、自信や芯の強さとなって表れます。そのせいか一人っ子には、普段はおとなしくても、ここぞというときに実力を発揮できるタイプが多い傾向があります」


自分と向き合う時間を通して成長する
一人っ子は、兄弟姉妹がいる子とは違い、身近に競争相手がいません。
「その点を心配する親は多くいます。しかし、兄弟姉妹と比べられるリスクが減ることは、むしろメリットではないでしょうか?『僕はお兄ちゃんより勉強ができない』『お母さんは妹ばかりをかわいがる』といった劣等感や嫉妬心を抱くことが少なくなるのですから」(諸富氏)
兄弟姉妹とものを取り合う場面もないため、がつがつせず、おっとりした性格になる子が多いそうです。
「友だちとぶつかったときに、一歩引いて相手に譲る優しさがあり、大人になってからいろいろなタイプの人と信頼関係を築ける可能性があるでしょう」(磯崎氏)
加えて、親からいろいろな環境を与えてもらえるのも、大きなメリットです。
「教育費が一人に集中するため、習い事や塾、進学先などに関して、子どもが希望する選択肢を比較的与えやすいと思います。そんな環境に小さい頃から身を置くことで、『自分がやりたいことは何だろう?』とじっくり考える姿勢も育ちます」(諸富氏)
「一人っ子は一人で過ごす時間が多く、静かに自分と向き合い熟考することが好きという傾向が見られます。自分の世界や価値観を見つけ、それに対して自信を深めれば、意外と自立するのも早いものです。反面、自分の世界に他人が踏み込んで来るのを嫌がる子も多く、周囲には"自己中心的""身勝手"と映ることもあるようです」(清水氏)


家事を手伝わせて責任感アップ! 
では、一人っ子のメリットや強みを最大限に生かすために、親はどうサポートしたらよいのでしょうか? 清水氏は「親が先回りし過ぎないように注意してほしい」とアドバイスします。
「親の愛情も注意も一人に集中するため、どうしても過干渉になりやすいと思います。子どもが希望を口にする前に、親が先回りしてものや環境を与え過ぎると、主体性のない大人になる恐れがあります。一歩引いて見守る姿勢を意識してほしいですね」
普段の生活では、子どもに選択肢を与えて選ばせることが、一つの方法です。
「夕食のメニューでも、家族旅行の行き先でもいいので、いくつか選択肢を提示して子どもに考えさせてみましょう。そうすることにより、自ら考える姿勢が身につきます」(清水氏)
「親は、子どもの好みがわかるため、子どもが喜びそうなものを与え、楽しめそうな場所に連れて行く。もちろん、それはとてもいいことです。しかし、すばらしい環境を与え過ぎた結果、子どもから『欲』がなくなり、自分の本当にほしいもの、やりたいことがわからなくなる恐れがあります。欲は、人間が生きる上で欠かすことができないエネルギーです。それを子どもから奪わないよう、注意してほしいと思います」(諸富氏)
また、一人っ子の親から多く挙げられる「協調性に欠ける」という弱みを克服する方法としては、年齢の異なる子どもと触れ合う機会を持つことが解決の糸口になるようです。
「親戚の子どもがいるなら、その子と遊ばせてはどうでしょうか? よい競争相手になりますし、兄弟姉妹に似た感覚を持てると思います。ほかには、学校以外の友だちと遊ぶ機会をつくるのもおすすめです。習い事でも地域のイベントでもいい。いろいろな年齢の子どもと互いに助け合う経験を重ねて、人間関係や協調性を学ぶことができます」(清水氏)
ただ、新しい環境に、自分から入っていくのを苦手とする子も。
「最初は親も一緒に行き、少し誘導してあげてもいいと思います。友だちづき合いを広げてほしいなら、自宅を開放して、いつでも友だちを家に呼べるような状態にすることも大切です。また、親自身が友だちと楽しく過ごしている場面を子どもに見せることも、大いにプラスになるでしょう」(諸富氏)
一人っ子がわがままな性格にならないためには、こんなサポートも。
「私は家事を手伝わせることが、子どもの成長につながると思います。普段、親がどんなことをしているのか実感することで、他人への思いやりが芽生えてくるでしょう。手伝わせる内容は基本的に何でもいいのですが、お米を炊いたり、お風呂の用意をするなどの仕事がおすすめかもしれません。これらは子どもがサボった場合、確実に家族が迷惑します。もし、子どもが忘れたとしても、責任感を持つよいきっかけになるのではないでしょうか」(諸富氏)



存分に愛情を注ぎ甘えを受け入れる 
諸富氏は、「最近は、周りから『一人っ子はわがままに育つ』と言われることを気にして、親が必要以上に厳しく接するケースが少なくない」と語ります。
「けれど、親の厳しい視線を子ども一人で受け止めるのは、とても苦しいこと。親の愛情を独占するから情緒が安定し、自信のある子に成長する。それが、一人っ子の特権であることを忘れないでほしい。甘やかすのではなく、"子どもの甘えを受け入れる"と言った意識で接するようにしてみてはどうでしょうか? 少なくとも小学校を卒業するまでは、存分に甘えさせていいと私は思います」
また、「子どもが一人しかいないことを親の責任と捉えないでほしい」と、3人の識者は口を揃えます。
「親が『一人っ子でごめんね』と言ってしまうと、子どももマイナスな感情を抱いてしまいます。もし、子どもから"どうして私は兄弟がいないの?"と聞かれたら、"あなたが大好きだから、子どもはあなただけでいいの""お母さんももう一人ほしいけど、それは神様が決めることだからわからないんだ"などと答えてみてはどうでしょうか?」(諸富氏)
「特に女の子は、男の子よりも"兄弟姉妹がいなくて寂しい"と感じやすい傾向があります。親もそんな子どもの心情を理解した上で、言葉のかけ方を工夫してみてください」(磯崎氏)
子どもをほめたり、注意するときも、一人っ子家庭の形態に気を配る必要があります。
「一人っ子の家庭は、基本的に大人二人、子ども一人の関係です。子どもには父、母との縦関係しかないため、ときに窮屈に感じることも。親は子どもを叱ったり、ほめたりする上からの目線だけでなく、"すごいね。お母さんもうれしい"など、子どもと同じ目線に立った共感の言葉をかけてみてください。ときには、子どもと一緒に何かに熱中してみるのもよいでしょう。そうして横の関係ができると、子どもの心にも安らぎが生まれます。さらに、親が一人の人間として扱ってくれたことを子どもはうれしく思い、その気持ちに応えようとしてさらに努力する。その過程で、自主性や自立心が伸びていくことでしょう」(諸富氏)
そして最後に、子どもとの関係に悩んでいるお母さんに向けて、諸富氏は次のようにメッセージを送ります。
「家の中に逃げ場のない一人っ子を、追い詰めないようにしてほしいと思います。そのためには、お母さん自身が自分の時間や家庭以外の場所を持つことが大切です。たとえば、熱中できる趣味を見つけてみる、友だちと会うために外出する、働く時間をつくるなどの方法を考えてみてはどうでしょうか?そうすることで、親子ともにリフレッシュできると思います」


話を伺った方々
諸富 祥彦氏
明治大学文学部教授。教育学博士。『男の子の育て方』『女の子の育て方』『ひとりっ子の育て方』(いずれもWAVE出版)など、教育・心理関係の著書多数。http://morotomi.net/
磯崎 三喜年氏
国際基督教大学教養学部教授。社会心理学をベースに子どもの仲間関係や兄弟姉妹関係に関する研究を行う。編著に『マインド・スペース ── 加速する心理学』(ナカニシヤ出版)など。
清水 克彦氏
政治・教育ジャーナリスト、文化放送ニュースデスク。中学受験に挑戦する200組以上の家庭を取材する。『よい親ダメ親ふつうの親』(アスコム)など、著書多数。
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