山岸侯彦先生が専門としているのは意思決定論。 「"よい決定になるのはどんなときか"という問いが根本的なテーマ」と解説します。

 

 「それに加えて、よい決定ができる場面と、そうでない場面を見極める。また、よくない決定をせざるを得ないときの心理状態を分析するなどして、"決める"という行動に関する知恵を身につけようというのが、研究の基本方針です」

山岸研究室では研究手法として、さまざまな実験を行っています

 

「その一例を紹介しましょう。まず、青色のビー玉と赤色のビー玉を複数用意します。これをふたつの容器に混ぜて入れる。そして、被験者に目をつむったままビー玉をひとつ取ってもらい、青色だったら当たりという非常にシンプルな実験です」 

 

たとえば、ひとつ目の容器Aには青色のビー玉が1個、赤色のビー玉が2個入っているとします。もう一方の容器Bには、青色のビー玉が5個と赤色のビー玉が15個入っています。

「ふたつの容器のどちらからビー玉を取るべきか、被験者は考えます。より真剣に考えてもらうために、"青色のビー玉を取った人には賞金を出す"などの条件をつける場合もあります」

 

青色のビー玉が当たる確率は、容器Aが3分の1(約33%)。容器Bは20分の5(25%)ということになり、計算上は容器Aの方が「当たり」を引く確率が高いと判断できます。

 

「ところが、"たった1個だと当たらなそう。当たりが5個もある方がいいかも"と考えて、容器Bを選ぶ被験者が少なくありません。つまり、人間は必ずしもデータや確率だけで物事を決断するわけではないのです」

山岸先生は意思決定の行動だけではなく、自分の決断を評価する過程にも注目しています。

「それに関する実験は、被験者が午後にある人物に会うという設定で行います。その人物に関して"結婚しているか?""ネクタイをしているか?""青いシャツを着ているか"などの質問を用意し、午前中の早い時間帯に事実か否かを0~100%の範囲で予想して答えてもらいます」

そのアンケートは回収し、被験者が目的の人物に会った後も見せません。被験者には、午前中に行ったアンケートの質問に対して何%と書いたか、記憶をもとに改めて答えてもらいます。

「すると、午前中は"青いシャツを着ているか?"という質問に対して『10%』と低い数値を予想していた人が、会った人物が青いシャツを着ているのを見て、無意識のうちに『20%』と回答するといった傾向が見られました。つまり、人間は自分にとって都合のいいように自分の決断を評価する傾向があるのです」

「研究成果を端的に説明すると、がん患者の意思決定の変化です。多くの患者はがんだと初めてわかったとき、がんを完全に消滅させる治療方法を希望します。しかし再発すると、日常生活に悪影響を及ぼすことのない範囲でがんとつき合っていく方向へ、自分の意思を変更するケースが多いということを明らかにしました。この研究をさらに進めれば、患者が治療法を決断する場面に直面したとき、医師がどうコミュニケーションを図れば適切な方向へ導けるか、といったことが突き止められる可能性があります」

以上のような意思決定に関する研究は、会社経営や組織の運営などにも応用できます。

「どんな商品を、いつ、どんな客層に提供するかといった企業の意思決定は、商学の分野でも注目を集めているテーマです。ビー玉の実験からもわかるように、人は理屈やデータだけを頼りに行動するのではなく、いろいろな要素を考慮して決断しています。そのことを念頭に置いて研究に取り組むことで、人間の本質をうかがい知ることができるのではないでしょうか」



東京工業大学大学院 社会理工学研究科
人間行動システム専攻
山岸 侯彦准教授
山岸 侯彦 准教授

慶應義塾大学文学部人間科学専攻卒業後、米ワシントン大学心理学部講師などを経て現職。著書に『数理心理学』(培風館)など。

夢を追って
「最先端のミツバチの研究で日本の農業問題に貢献した...
私は、外で遊ぶのが大好きな子どもでした。小学校では、休み時間を過ぎても運動場で遊んでいたり、先生の言...>>続きを読む
夢を追って
世界が直面している宇宙ゴミの問題をこの手で解決した...
子どもの頃はだめだめでした(苦笑)。今よりもかなり太っていて運動が苦手な上に勉強もできない。だからと...>>続きを読む
サイトマップ
人気記事ランキング
01 特集
そのひと言が子どもを変える! 学力を伸ばすほめ方・励まし方
02 スペシャルウィーク
9歳までに身につけたい国語力
03 子育てに効く脳科学のお話
頭をよくする方法はある?

サイト内検索
 

RSS登録
これまでの特集記事



気になる記事ピックアップ
これまでに公開された記事の中から気になる記事をランダムでピックアップし、表示しています。