第18回

『雪と珊瑚と』

梨木香歩【著】
12年4月刊/角川書店/ 1,575円
Amazonで購入

『トマト・ケチャップ・ス』

東直子【著】
12年3月刊/講談社/ 1,575円
Amazonで購入

家庭に事情を抱える3人の女子高生。タイプの違う彼女たちが、ある日漫才トリオ「トマト・ケチャップ・ス」を結成する。ユーモアと切なさが絶妙な青春グラフィティ。

『体の贈り物』

レベッカ・ブラウン【著】
柴田元幸【訳】
04年10月刊/新潮社/ 540円
Amazonで購入

ホームケア・ワーカーの「私」が、重い病によって日常生活が困難になった患者たちとの日々を、淡々と語ってゆく。深く心に響く11の連作小説。


梨木香歩の『雪と珊瑚と』は、主人公の珊瑚が〈赤ちゃん、お預かりします〉という貼り紙を見つける場面から始まります。珊瑚は21歳で、娘の雪を産んだばかり。夫とは離婚していて、唯一の身内である母親は高校生の頃から行方不明。赤ん坊を抱えたまま働きに出ることもできず、途方にくれていたところでした。珊瑚は貼り紙の主、くららと出会ったことをきっかけに〈さしたる夢もなく野望もなく、とにかく目の前の土を掻きわけて、なんとか息のできるスペースをつくっていく〉人生を変えようとします。

最初は正直、否定的な意味合いで、おとぎ話だなあと思いました。切羽詰まったシングルマザーの前に、赤ん坊を無償で預かってくれる上、美味しい料理の作り方まで教えてくれる人があらわれるんですから。おまけにパトロンもいない珊瑚が、起業するなんて。もっと現実を直視しろ、と言いたくなります。けれども、読んでいくうちに、梨木さんはシビアに現実を見つめているからこそ、こういう希望を差し出せるのかもしれないという気持ちが強くなっていくのです。

たぶん、珊瑚を助けてくれる登場人物が彼女の認識の甘さを率直に指摘するからでしょう。たとえば、商売の公平性についてアドバイスしてくれるパン屋の雅美さん、公的融資の申請の仕方を教えてくれるカフェ店主の外村、野菜の仕入先を紹介してくれるくららの甥の貴行。理想を持ちつつ地に足がついた経営者たちの言葉は、示唆に富んでいます。また、くららのように他人と助け合うことを楽しみ、温かな何かを手渡したくなる一冊です。

珊瑚が一冊だけ持っている本としてシベリア抑留体験がある石原吉郎の詩集が出てきますが、東直子の『トマト・ケチャップ・ス』では、父親の暴力に苦しむ少女が石原吉郎の詩に救われます。家族関係に問題がある女子高生が「笑い」を介して支え合う話でもあるので、あわせてオススメ。 

人が何かを与え合う小説といえば、レベッカ・ブラウンの『体の贈り物』もはずせません。ホームケア・ワーカーと重い病に侵された患者たちの交流を静かな筆致で描く短篇集。他人の世話なしには食事さえままならない病人が、介護人に贈るプレゼントの美しさ。一読したら忘れられない本になることをお約束します。

今月の新刊案内
深まる秋を彩る秀逸な物語たち
児童文学のノーベル賞とも言われる国際アンデルセン賞作家賞を受賞した上橋菜穂子さん。大人も夢中にさせる...>>続きを読む
今月の新刊案内
仕事について考えてみる秋
「子どもには世界を視野に入れて夢を追ってほしい」と考えているお父さんお母さんに、ぜひ読んでいただきた...>>続きを読む
サイトマップ
人気記事ランキング
01 特集
そのひと言が子どもを変える! 学力を伸ばすほめ方・励まし方
02 スペシャルウィーク
9歳までに身につけたい国語力
03 子育てに効く脳科学のお話
頭をよくする方法はある?

サイト内検索
 

RSS登録
これまでの特集記事



気になる記事ピックアップ
これまでに公開された記事の中から気になる記事をランダムでピックアップし、表示しています。