「地球を駆かけめぐって生命の起源の謎を解明したい」

長沼毅氏(生物学者)

夢をかなえるために大事なこと3つ

すべり台で見つけた自らの人生のテーマ

なぜ私が科学者になったのかを問れれば、幼稚園の頃にまで話がさかのぼることになります。すべり台で遊んでいて、降りていって砂場に着地したときに、なぜだかふと思ったんです。「自分はいったいどこから来たんだろう。そして、どこへ行いくのだろう?」と。自分に対する客観的な視点を手に入れたわけですよね。それから間もなくして、鏡の中の自分を見たときにも同じような思いにかられました。「おまえはいったい何者なんだ?」と。

子どもに「私はどこからきたの?」と聞かれたら、「お母さんのお腹の中からだよ」と答えればいいと言う人がいるかもしれません。でも、自分の母親はその母親から生まれている。そのまた母親は・・・、と考えていくと、どこが始まりだかわからなくなりますよね。人間はどこから来たのかを知るために、生物の起源の謎を解き明かしたいという気持ちが、私の中でどんどんふくらんでいきました。

小学1年生のときには百科事典を買ってもらって、地球や宇宙について何度も読んでいました。おそらく、そこで読んで知ったのだろうと思うのですが、私が生まれた日は人類が初めて宇宙へ飛び立った日でもあるんです。1961年4月12日。なので、「将来は宇宙飛行士になろう」とも考えていましたね。

6年生で柔道の町道場に通うようになったのがきっかけで、中学と高校は柔道部に入りました。部活動と柔道場をかけ持ちして、柔道漬けの毎日。高校のときには、道場で年下の子どもたちを教えるまでになって、お小遣いも稼いでいました(笑)。学校の勉強は得意だったかといえば、実は生物は苦手でした。比較的暗記ものの要素が多いので、興味がわかなかったんです。地理や歴史も苦手科目でしたね。ところが、高校の生物の教科書の中の「生命の起源」について書かれてあるところがあって。ものすごく惹かれました。それまでは暗記ものとしてしか見ていなかった学問が、子どもの頃に自分の中に生まれた問いと重なって、急に身近に感じられるようになったんです。

生命の謎を追って海底4000メートルへ

南極リビングストン島。世界で最も風が強い場所のひとつで、秒速10 ~ 20mほどの風が吹く。ペンギンやゾウアザラシの特別保護区でもある。

それで大学は、生物学を勉強できる場が独立している筑波大学に進学しました。親とは進学に対する考えの違いで対立してしまったので、学費は自らアルバイトで稼いで大学へ通いました。その少し前、1970年代の後半に、生命に関するふたつの大きな発見がありました。ひとつは、海底深くで300度を超える熱水が噴き出しているところで深海生物の群れが見つかったこと。生物と言っても、海藻みたいにゆらゆらと海底に張り付いている、ミミズのような単純な形の生物です。もうひとつは、木星の衛星のひとつで火山が発見されたこと。このふたつを考え合わせると、「木星の衛星に生物がいてもおかしくない」ということになる。大学に入って、「生命の起源を知りたい」という私の思いはますます強くなっていきました。

大学院では微生物の研究をしている先生のもとで学び、その先生のご縁で、海洋科学技術センター(現・海洋研究開発機構)という研究機関で働くことになりました。それで、深海微生物の研究が私のテーマになったんです。「しんかい2000」や「しんかい6500」という潜水調査船に乗って海底4000メートルまで潜って、微生物のサンプルを採集したりしました。当時の研究の成果が評価されたことが、現在の職場である広島大学に研究の場を移すきっかけです。

専門分野にこだわらずあらゆる視点をもつ

サハラ砂漠にて。夜明け前に0度まで気温が下がり、霧で真っ白になると、月の光で虹(月虹)が見えるという。

ひかりも届かないほど深い海の底は、私たちが普段生活する環境とはまったくの別世界です。海底も宇宙もその点では同じ。人が生活しないような場所に生命の謎を解くカギがあるかもしれない。それで、私は海底だけにかぎらず、南極、北極、砂漠、高山、鍾乳洞など、さまざまな場所へ出かけて研究を行うようになったのです。最近まで、1年のうち、3か月ほどは地球の辺境地へ赴いて滞在ざいし、研究を行っていました。

一方で、私は現地調査を軸とする「研究」だけでなく、集めたサンプルやデータをもとに仮説を立てたり、既存の考え方を捨てて違う見方かたをしてみるといった「考究」も大事にしています。研究者の中には、生命の不思議をエネルギーの視点からとらえようとする人もいます。私たちのDNAに刻み込まれた遺伝子情報に注目して情報工学の観点で読み解こうとする人もいます。つまり、それぞれの研究者が自らの専門分野の立場から、生命の謎に迫ろうとしているわけです。

しかし私は、この巨大な謎を解き明かすには、できるだけ多くの視点からとらえることが有効ではないかと考えます。生命とよく結びつけられる生物学、物理学、化学といった学問もんだけでなく、地理や歴史、ときには哲学や神話などから考えてみることも必要なのではと思います。たとえば、みんなだって、勉強したり運動したり何かつくったりするのに、ひとつの道具よりたくさんの道具を使ったほうが、上手に早くできたという経験はありますよね。

だから、私は専門分野にこだわらない科学者でいたいんです。もちろん、自分の得意な専門分野を磨くことは悪いことではありません。ただ、専門分野も持ちながら、たくさんの道具を使えるとしたら、こんなにいいことはないと思いませんか。

大事なのはしっかりと疑問に向き合う姿勢

中学時代、柔道部に所属していた頃の一枚。下段一番左が長沼氏。体を動かすのが大好きで、相撲にも興味があった。

世界の辺境地での研究調査では、さまざまな国の研究者のチームと交流する機会があります。私は英語が得意でないせいか、相手も英語が母国語でない人たちの場合、お互いがカタコトの英語で話すうち、かえって仲よくなったりするのです。さまざまな背景を持つ各国の人たちとの交流ができるのも、こうした研究のいいところです。

研究の合間には大学で学生たちを教えたりもしますし、出張授業という形で小学生や中学生に話をすることもあります。「宇宙に生命は必要か」という質問を投げかけてみたときに、「なくていいと思う。人間は戦争をするから」と答えた生徒もいました。私はいろいろな答えがあっていいと思いますが、みんなはこの答えをどのように感じるでしょうか?授業の一番の目的は、「疑問に思うことに真剣に向き合う姿勢」を持ってもらうことです。なぜ宇宙は生命をつくったのか。私たちはどこから来たのか。答えは解き明かせないかもしれないけれど、答えを探して地球を歩き回るのは、私にとってとても楽しいことだから。

小学校に入ってすぐ全10巻の百科事典を買ってもらったときは、うれしくてずっと読んでいました。子どもの知的好奇心を自然な形で刺激してあげるのは親の役割だと思います。その一方で、子どもが困難な局面にいるときに安易に手をさしのべることなく問題解決力を伸ばしてやり、それでいてきちんと見守ってあげることも大切だと感じます。先ほど述べた「夢をかなえるのに大事なこと3つ」も、実は子どもの独力では難しい。大人の適切なサポートが、よい結果を生むのではないでしょうか。
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