「遺伝の仕組みを解き明かし病気にかかる人をなくすのが夢」

塩見美喜子さん(慶応義塾大学医学部 准教授)

夢をかなえるために大事なこと3つ

草野球少女から数学と化学好きの子に

学校の成績、行動面、いずれをとっても本当に普通の小学生だったと思います。当時は名古屋市内に住んでいましたが、まだ家の近所のそこかしこに田んぼがあった頃で、放課後はカエルを追いかけたり缶蹴りをしたりしていました。男の子たちと遊ぶことが多くて、草野球をすることもありましたね。

中学に進むと、体操部に入りました。ところが、交通事故に遭ってけがをしたために、半年でやめることになってしまったんです。小学生のときはとても活発に動き回っていたのに、その後は、だんだん運動が苦手になってしまいました。それでも、学校に行くのは楽しくて、友達と他愛ないおしゃべりをする時間が大好きでした。成績は相変わらず中の上ぐらいで、地元の公立高校に進学しました。高校では図書部に入って、図書館の本の貸し出し作業を行いました。読書家で本好きというわけでもなかったんですけど..。あまり目立つところのない生徒でしたから、特徴のない話ばかりでごめんなさい(笑)。

学校の教科でいうと、数学、化学が好きだったので、大学は理系に進むのがいいだろうと思いました。数式があって、きっちり答えが出る教科が好きなんです。ですから、国語はどちらかというと苦手でした。「文章を読んで主人公の気持ちを書け」というような問題って、解答を見てもピンとこなくて、すっきりしなかったんです、私は(笑)。

教育学部の数学科、工学部、建築学科なども考えましたが、親や先生に相談した結果、やはり関心のあった合成化学の分野を目指すことにしました。それで、実家から通える岐阜大学の農学部農芸化学科に入学したのです。

渡米が転機となりRNAの研究を開始

5年生の頃、右から2番目が塩見さん。「林間学校での1枚です。活発な子でしたね」(塩見さん)

大学では軽音楽部に入ってジャズなどの音楽を楽しむこともありましたが、学年が進むと専門的な勉強が多くなり研究室で過ごす時間が増えていきました。農芸化学という学問は、微生物、植物、合成化学、生化学など、幅広い分野を学ぶ必要があります。勉強を進めるうちに知的好奇心がどんどん刺激されて、さらに深く学びたいと思うようになりました。そこで、大学院への進学を決め、先生に勧めていただいた京都大学大学院へ進んだんです。ここで学んだことによって、農学博士の学位を取得しました。

その後、研究室に残って教授のお手伝いをしていたのですが、当時じ、結婚したばかりの夫がペンシルベニア大学の研究員になることが決まり、私は自分の研究を中断して一緒に渡米しました。夫の勤務先の研究施設で行われていたのは、リボ核酸(RNA)という生物の体内にある物質の研究。私は、アメリカでは遊んで暮らすつもりだったのですが(笑)、夫の上司から「研究の経験があるのだから、あなたも働きなさい」と言われました。その言葉がきっかけで、それ以来、夫とともにこのテーマの研究を続けることになったんです。

当初は英語に苦労しました。研究施設内で使うのは数少ない専門用語に限られていますから、それほど苦にはなりません。が、一歩外に出ると対話で困ることはよくありましたね。

そして、何よりも驚いたのは、コミュニケーションに対する考え方の違いです。日本人は、自分より偉い人に対しては、遠慮してはっきり物を言わない傾向があります。向こうでは、相手のことを尊敬しながらも、厳しい意見もきっぱり言うんです。また、私たちは研究成果を表す場合、論文を書くこともしますが、学会などで発表する場合も少なくありません。こういうときは、プレゼンテーション能力が高い研究者のほうがたいてい評価が高くなります。それによって、得られる研究予算も変わってきます。研究者というと、一般的には研究室に閉じこもっていると思われがちですが、実際には、ディスカッションで自分の意見を主張したり、ときには相手を説得するだけの高いコミュニケーション能力が要ります。研究者に限らず、この能力はどんな職業でも大事。ですから、早いうちから積極的に人と交わって自分の考えを伝えたり、相手の言葉の本当の意味を考える練習を積むことをみんなにもおすすめしたいですね。コミュニケーションの力を磨いておけば、将来きっと役に立つはずですよ。

未知の世界を解明する喜びこそ研究の原動力

大学卒業時に、研究室のメンバーと撮影。一番右端の学ランを着た男性が、夫の塩見氏。

私が今、進めている研究のテーマであるリボ核酸という物質は、遺伝情報を伝える役割の一部を担っています。その一方で、遺伝子の働きを抑える機能があることもわかりました。つまり、病気を起こすもととなる、変異質の入ったタンパク質がつくられてしまうことを防ぐ働きもあるわけです。この仕組みを解明していけば、将来、特定の病気になった人を治すことができるかもしれないのです。もちろん、それには時間がかかります。あらゆる可能性を探りながら仮説を立てて、条件を少しずつ変えながら何度も実験を繰り返す必要があるからです。うまく行かずに仮説が覆がえされて、また最初の一歩から始めなければならないときもたくさんあるんですよ。24時間かかる実験を行っていて、ずっと順調に進んでいたのに、あと1時間というところになって急に失敗に終わることだってあります。

それでも仮説通りの結果が出て、それまで解明されていなかったものの答えを見つける喜びは、多くの時間や労力を注ぎ込むだけの価値があるものだと感じます。人間の身体の仕組みにはまだまだ解明されていない部分が多いので、研究を進めれば進めるほど、不思議なことが増えていく。だからこそ、それを解き明かしていくおもしろさが味わえるのだと思います。どこまでも興味が尽きないこの仕事を、これからもできる限り続けていくつもりです。

子ども達に科学研究の魅力を伝えたい

アメリカの研究室にいた頃。「世界中から研究員が来ていたので、とてもおもしろかったです」(塩見さん)

私が取り組んでいる研究テーマの発展性や将来性が認められて、一昨年に猿橋賞という賞をいただきました。この賞は、さまざまな自然科学の研究分野の第一線で活動する女性科学者に贈られるものです。大変ありがたいことだと感じていますが、受賞の前後で私の生活が大きく変化したわけではありません。しかし、受賞によって、みんなを始めとするたくさんの若い人たちが科学の道へ進むきっかけになるなら、とてもうれしいですね。

先ほども言ったように、科学の研究は人の健康や環境改善に役立つため、とてもやりがいがあるものです。以前、娘に研究施設を見学させたことがあります。珍しいものや不思議なものに囲まれて目を輝かせていました。科学の楽しさや可能性を子ども達に伝えていく活動にも、今後取り組んでいけたらと考えているところなんですよ。


一度も「勉強しなさい」と言われたことはなかったですね。子どもは親の言うことに反発したくなる時期がありますから、勉強を強要されていたらどこかでやる気を失っていたかもしれません。また、父が建築士で、家には設計の道具がたくさんありました。変わった形の定規などに好奇心をかきたてられたものです。母は幼い頃から熱心に私にピアノを習わせました。ピアノは数年続けたところでやめてしまいましたが、両親が感性を養う環境を与えてくれたのだと思うと、ありがたいですね。

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