震災後に求められる理系人財のありかた
目指すは優秀な理系人財の育成、そして将来のノーベル賞候補の輩出。文部科学省が昨年から開催している「サイエンス・インカレ」が盛況です。これは、自然科学を学ぶ全国の大学生と高等専門学校生たちによる研究発表の舞台。
「今年は"リケジョ"の活躍が目立ちました。受賞者の数で女性が男性を大きく上回ったんです」
そう語るのは、文部科学省の斎藤尚樹氏。「サイエンス・インカレ」と同じ狙いのもと、高校生向けには理数系科目の筆記と実技を競う「科学の甲子園」を開催。加えて、今年12月には、中学生を対象にした、「科学の甲子園ジュニア」も新設される予定です。こうしたイベントで掲げられている「優秀な理系人財」とは、どのような姿なのでしょうか。改めて斎藤氏にお話をうかがいます。
「かつて日本では、与えられた問題に対して答えを出す能力が評価されました。しかし今は、自ら問題を設定する能力が求められているのです。高齢化や少子化、災害対応などの社会問題にしても、正解があるわけではありません。私たちがこうした問題にどう取り組んで、どんな答えを出すのか。同じ社会問題に直面する世界中の国々から、注目を集めているところです。そこで中心的な存在になるのが、"理系人財"です」
斎藤氏は、理系人財の特色として、「課題発見能力」と「論理的思考力」を挙げます。
「前述の『科学の甲子園』では、『こんぺいとうの表面積を測定しなさい』という実技問題が、高校生たちを悩ませました。これも模範解答はありません。どのように解いてもいい。『何をどう測定したらいいか』という、課題発見能力そのものを試す問題だと言えます。論理的思考力とは、思考力そのものに加えて、実証プロセスを重視する側面を含んでいます。単なる仮説を、実験やシミュレーションを通じて裏づけていく。これも理数ならではのアプローチです」
加えて、「これからは社会リテラシーも大変重要なものになってくる」と斎藤氏は続けます。
「東日本大震災後、残念ながら理系人財のイメージが悪くなってしまいました。ひとつの原因は"想定外"という言葉を連発したことです。やむを得ない面もあります。科学は万能ではありません。地震学ですべての地震を予測することはできませんし、原発事故にしても、事前にさまざまな対策が講じられていたにもかかわらず、防ぐことができませんでした。でもこれからは、起こりうる危機、顕在化するかもしれないリスクについて、関係者がしっかり共有しなければならない。あるいは、自分の研究がこの社会においてどんな意味を持つのか、どういうふうに役に立つのか学ばないといけない。社会リテ 新聞で育む社会リテラシー では、これから必要とされる理系人財の社会リテラシーを育てるには、どうしたらいいのでしょう。斎藤氏が掲げるキーワードは、「縦割りから横割りへ」「上から目線を中から目線へ」です。
「理系人財が直面する問題は、多くの要因が複合しています。高齢社会にしても環境問題にしても、ひとつの専門だけでは対応できません。大切なのは、自分の専門のみを縦に深めていくのではなく、複数の専門家同士が横の連携をとること。これが『縦割りから横割りへ』。また、これまで専門家は一般社会と向き合うとき、ともすると『教えてあげる』というスタンスを取りがちでした。でも、今後は社会の中で人々と問題意識を共有し、『中から目線』で語ることが必要になるんです」
こうした人財を育てる取り組みが、各校で始まりつつあるとのこと。
「東京学芸大学附属高校では、公民と地学の先生が、共同で『リスク社会と防災を考える』をテーマとした授業を行いました。授業といってもロールプレイングゲームのような形式です。クラスを国土交通省の役人と地域住民に分け、"地元に高さ8mの防潮堤を建設する"ことを目標に、議論を進めていくというものでした。住民には、さまざまなバックグラウンドがあります。彼らと行政側が議論をし、合意形成を目指していく。非常にユニークな授業ですが、これからの理系人財に求められる、新しい学力を示していると思います。この学校の卒業生から、実際に公務員として住民対話に立脚した政策決定に携わったり、住民代表として地域からの意思表示をリードする方々も出てくるのではと考えます」
とは言え、多くの小学校や塾の授業は、算国理社と分けて行われ、それぞれの知識がリンクする機会は少ないと言えるでしょう。では、理系を志す子どもたちのために、家庭でどんなことができるのでしょうか。
「ひとつ考えられるのは、雑誌やインターネットを通じて、さまざまな分野の記事を読むこと。素朴な興味を入り口に、興味の広がりに合わせて多くの知識を吸収していきます。あるいは、一番わかりやすいのは新聞かもしれません。テレビは、ときとして現実に起きていることのごく一部しか伝えませんし、情報の偏りもあります。新聞にも偏りはありますが、複数の新聞を重ねて読むことで、ある程度は解決できます。今、世の中で何が問題になっているのか、どんなソリューションが求められているのか。新聞を読んでいるうちに、頭に入ってくると思います。どの記事も、これは理系、これは文系とラベルが貼られているわけではありません。でも、自分の知識を総動員して考えてみる。そんな経験が将来の理系人財を育んでいくことでしょう」

◎お話を伺ったのは……

文部科学省
科学技術・学術政策局
基盤政策課長

斎藤 尚樹
「求められるのは
 自ら問題を設定して
  自ら解決する力」

※斎藤氏の肩書きは2013年6月20日時点のものです。

Q.「サイエンス・インカレ」って何?
A.「出る杭を伸ばす」科学を学ぶ学生たちの祭典。
自然科学を学ぶ全国の大学生、高等専門学校生による自主研究の発表会。発表部門は「口頭発表」と「ポスター発表」の2種で、課題設定・探究能力、独創性、プレゼン能力などが審査される。2013年3月に幕張メッセで行われた第2回大会では、全234組の応募者中、145組が書類選考を通過し、研究発表の舞台に立った。世界で活躍する人材を育成するため、「出る杭を伸ばす」のが狙いだが、他校の学生や企業との交流を深め、研究の励みを得る場にもなっている。

サイエンス・インカレ
▲口頭発表の様子。審査員は全国各地の大学の教授や准教授らが務めている。

サイエンス・インカレ
▲巡回する審査員や見学者と、白熱した質疑応答が行われるポスター発表。
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