ウルトラマンの実在を疑わなかった少年時代
アニメやマンガ、特撮ものなどを科学的に検証したベストセラー『空想科学読本』は、多くの人々に科学の楽しさを伝えてきました。たとえば、「ウルトラセブンがマッハ7で飛ぶと、衝撃波で体が裂ける」「アルプスの少女ハイジのブランコは時速79㎞」といった具合。笑いながら読み進むうちに、夢と科学が一体となった空想科学の魅力を再認識させられます。子どもなら科学に対する興味をかきたてられ、理系への扉が開かれるかもしれません。
著者である柳田理科雄氏も、幼い頃から理科が大好きでした。そのルーツは少年時代に遡ります。
「理科好きになったのは種子島の生まれで、海も山も近く、周りに自然がたくさんあったから。それと、もうひとつは都会的なものがなかったこと。鉄道や信号機、エレベーターもなかったのですが、テレビに出てくるのを見て、どんなものかを想像していました。急行はどうやって普通列車を追い越すのだろう、線路がふたつに分かれて、どこかで必ず合流しているはずだとか、都会の子どもたちが目で見て知っていることを、空想して考えるしかなかったんですね。ないからこそ憧れる、という面があったのだと思います」
理科が好きで、あれこれ空想しがちな小学生が、SFアニメや特撮ものに夢中になるのは当然のこと。ただし、柳田少年のハマり方は、ほかの子どもたちとはちょっと違っていたようです。
「ウルトラマンが怪獣をぶん投げてビルが崩れると、危ない!! と真剣に衝撃を受けていましたね(笑)。ウルトラマンの存在を全く疑っていなかったんです。僕にとっては鹿児島市が都会で、その向こうにある福岡市はもっとすごい都会、はるか遠くにある東京は夢の世界でした。そこに正義のヒーローがやってくるというのに、違和感がなかったんです。そのあたりの感覚も都会の子たちとは違うかもしれませんね」
ウルトラマンが実際にいると信じていた小学校時代。中学生になる頃には、『空想科学読本』の原型となる会話をしていたそうです。
「たとえばウルトラマンの身長は40m、体重3万5000tですが、東京タワーは高さ333m、重量4000tなんですよ。東京タワーはウルトラマンの8倍以上高さがあるのに、重さは9分の1ほど。つまり、ウルトラマンは大きいというより、むしろ重いんです。そういうことを考えて、友だちとよく話をしていました。社会人になってからも、その友だちと一緒に飲みに行っては、中学生のときにはできなかったような計算をして、箸袋の裏に書き留めたりね(笑)。ですから、構想20年。ずっと昔からやってきたことの延長なんですよ」
やがて、その友人が出版社に就職。「あの頃、話していた内容を本にしないか」と持ちかけられたのをきっかけに、『空想科学読本』は世に出ることとなり、大反響を呼んだのでした。

実験教室の子どもはみんな理科が大好き
空想科学研究所を設立し、主任研究員を務める柳田氏は、各地の小学校に招かれて講演を行ったり、理科実験教室を開催するなど、活躍の場を広げています。子どもたちと触れ合う機会も多いそうですが、"理科離れ"について、どのように捉えているのでしょうか。
「実験教室で子どもたちの様子を見ていると、本当に理科が大好きです。『実験をやりたい人?』と聞くと、一斉に『はーい!』と手を挙げます。多過ぎるときには、じゃんけんをして人数を絞るんですが、負けたはずの子も入ってきて、いつの間にか全員が舞台に上がっているということも(笑)。ですから、子どもたちは"理科嫌い"というよりも、"理科の勉強嫌い"になってしまっているんじゃないかと思うんです」
理科教育に必要な設備の不足など、"理科嫌い"の背景にある教育環境の貧弱さを柳田氏は指摘します。
「昔の理科室には、はく製や標本がずらりと並んでいたり、何の役に立つんだろうというようなものがたくさんありましたよね。でも、今の理科室にはそれがない。子どもがケガをしないよう、ビーカーもプラスチックに変わり、アルコールランプもない。実験をするには道具を揃えるのが大変なのですが、今の学校ではそれができないんです。実験をする場合も手順通りに進めるだけなので、子どもたちは自由に遊べません。フナの解剖も少なくなり、そういうものに触れる機会が減ってしまっています。すべての先生がそうというわけでありませんが、先生方で自然について語れる人が少なくなってきているのも間違いないでしょう」
"理科離れ"以上に柳田氏が深刻視しているのが"活字離れ"です。どちらに対しても「何とか食い止めたい」との想いを持って、2007年に開始したのが「空想科学図書館通信」。高校の図書館に向けて、週1度ファックスで情報発信しており、生徒たちの質問に答える交流の場にもなっています。
「本は書店に行かなければ買えません。書き手と読み手の出会いがそこにしかないんです。そこで、高校生にもっと手軽に読んでもらいたいと考えました。当時、学校にインターネットが整備され始めていましたが、それは空想科学研究所らしくない(笑)。1校1校ファックスで送り、図書館の掲示板に貼ってもらうことで、図書館の利用にもつながると思っています。生徒たちからは、自分の質問を取り挙げてほしいという熱意が伝わってきます。たとえば、ロシア民話の『おおきなかぶ』で『あれだけ引っ張っても千切れないカブの葉っぱの強さを教えてください』とか。どうして君はそこに着目したんだ、と言いたくなるような(笑)、思いもしない質問も多いんですよ」
開始当初、送信する学校は100校ほどを見込んでいたものの、予想以上に多く998校からスタート。現在では、全国2630校に達していると言います。

新しいものを生み出す"理科力"で問題解決
本来、子どもは皆、物事に対する好奇心や「なぜ?」と感じる気持ちを持っているもの。ところが、中学・高校と進むにつれ、「理科が苦手」という人の割合は増加する傾向に。その原因はどんなところにあるのでしょう。
「学年が上がるほど、これは覚えたか、これはできるかと、何かに到達することを求められるようになります。目標とする段階を先に定めれば、届かない子も当然出てきます。すると、どこまでできているかではなく、足りない部分ばかりを見るようになる。その経験の積み重ねで、『自分は理科ができない』『理科が苦手だ』、遂には『世の中に理科があるのがいけない』になってしまうんです(笑)。ですから、到達点を先に求めるのではなく、その子の興味や関心に合わせて、いろいろな部分にサーチライトを当てていくこと。大人には、それに一緒につき合うという姿勢であってほしいと思います」
ただ、それを学校側に要求するのは厳しいのが現状。生徒一人ひとりの関心の先に何があるのかを、正しく把握していなければならないからです。では、子どもを理科好きにするために親は何をすればいいのでしょうか。そもそも、"理科力"とはどんな能力なのかを知っておきたいところです。
「理系の人が目指すべきは、新しいものを生み出すこと。これを明確な目標にしてもらいたいですね。たとえば、石油の奪い合いで戦争が起こるなら、石油に代わる新しいものをつくり出す。問題自体を解決するのが理系人の役割です。そうなるためには、必ず問題の発見をしなければなりません。みんなが不思議に思わない、まだ誰も気づいていないところに問題を見出すのは、必要な能力です。ふたつ目は、自分で学ぶ力。発見した問題に対していきなり答えを出そうとするのではなく、データを仕入れたり、先人がどこまで成し遂げているのかを調べて、解決するための能力を自ら身につけられるか。最後に、自分の頭で考えること。本に書いてあったとか、先生がこう言ったからと、よそに答えを求めようとする人が非常に多いんですよ。権威や多数意見に頼らず、自分の頭で考えることは、重要なことなんです」

疑問に答えなくても共感するだけで十分
"理科力"を知れば、その最初のステップとなる「問題を発見する力」の大切さがわかるはずです。そこで、親の対応のあり方が問われます。
「子どもが道ばたで何かを見つけたとき『急ぎなさい』と手を引っ張ったり、何だろうと考え込んでいるときに、『つまらないことに悩んでないで』なんて言っていませんか。効率だけを求めた対応をすると、子どもは自分の世界を広げられなくなってしまいます。発見に対しては、共感してあげること。『そうだね』という親の言葉に子どもは勇気を与えられるんですよ」
理科について話をする自信がない場合は、共感だけで十分。必ずしも、疑問に答える必要はないとのことです。
「どんな立派な先生でも、子どもの質問にすべて答えられるということはありえません。答えられないのは恥ずかしい、という発想を捨ててほしいですね。今はインターネットで簡単に調べられますが、調べてもわけがわからないこともありますよね。わかる範囲だけで適当に答えるより、『不思議だね』と言い続けるほうが実りの大きいことも多い。『疑問に思ったことを覚えておこうね』と声をかけたり、日記に書くという方法もあります。僕自身を振り返っても、小さい頃に感じた『宇宙の果てはどうなっているのか』という疑問は、高校生になって本を読んでやっと解けた謎でした。不思議だなという気持ちが強ければ、子どもはその疑問をずっと持ち続けます」
最後に、「我が子を理系に」と考える親に向けてメッセージをお願いすると、柳田氏からは「親が邪魔をしない」というひと言が返ってきました。
「植物の芽と言えば、小さな2枚の葉っぱの双葉をイメージしますよね。ところが、葉っぱが1枚の単子葉の芽もあれば、最初から大きな葉が出てくる芽もあるかもしれません。光を当て、水をあげれば、思わぬ形に育つこともあります。それを無理に双葉に変えようとするケースが多い。親は子どもに、自分の理想通りに育ってほしいと願います。きちんと挨拶して、遅刻をしないといった子どものイメージが、必ずしもその子の形とは限りません。子どもがせっかく育とうとしているのに、正しい形ではないからと、つい手を出してしまっていませんか。親がそういう邪魔をしなければ、子どもは健やかに伸びていくと、私は信じています」


空想科学研究所 主任研究員
柳田 理科雄
1961年鹿児島県生まれ。鹿児島県立鶴丸高等学校卒業後、東京大学理科I類に入学。1996年に刊行された『空想科学読本』がヒットし、以後シリーズ化。1999年に空想科学研究所を設立。

どんなご両親でしたか
両親は高校の同級生で、一緒に文芸部を立ち上げたそうです。理科については基礎的な知識もなかったと思います。だからこそ、ガガーリンの宇宙飛行の2か月後に生まれた僕に、「理科雄」と名づけたのでしょう。子どもの頃から、僕が読みたいと言う本を買ってくれないことは一度もありませんでした。小6の冬休み、入試の2か月くらい前なのに、ハンググライダーをつくって飛ばそうとして失敗したときも、何も言われませんでしたね。何もしないでダラダラしていると叱られましたが、何かをして叱られる、ということはありませんでした。
幼少期

おすすめスポット
おすすめスポット1
◎国立科学博物館
日本で最も歴史のある総合博物館。400万点を超える貴重なコレクションを保管し、人類や動物たちの進化、自然環境の変化、科学技術の歩みなどの展示を行っている。「地球館3階の展示室が特におすすめ。フロアいっぱいに並んだはく製を眺めるだけで、十分楽しめるでしょう」。
DATA
住所:東京都台東区上野公園7-20
TEL:03-5777-8600
URL:http://www.kahaku.go.jp/


おすすめスポット2
◎神奈川県立生命の星・地球博物館
地球の誕生から現在までの壮大な歴史、生命の営みの神秘、自然と人間とのかかわりを紹介する博物館。1万点にのぼる実物標本を見て触れて、学ぶことができる。「鉱物の展示が充実しています。きれいな結晶をつくる石など、まるで地球の生命が感じられるようです」。
DATA
住所:神奈川県小田原市入生田499
TEL:0465-21-1515
URL:http://nh.kanagawa-museum.jp/


理科力って?
子どもが発見したこと、疑問に思ったことに共感してあげることが何より大切です。子どもの疑問というのは、一度聞いただけではわからないことも多い。そこで、「何をつまらないこと言っているの」と頭から否定しないこと。まずは根気よく聞いて、理解するよう努めてください。わかった瞬間に「そういえばそうだね」と感じるはず。共感する言葉が自然に出てくるでしょう。その親のひと言が、子どもたちにとってどれほどうれしく、勇気を与えてくれるか。“親の共感”は、子どもの理科力を育む一番の栄養素です。

▼社団法人庄原青年会議所が主催する、子ども向け理科実験体験ショーの様子。実験教室や訪問授業などで各地の小学校を訪れ、理科の楽しさ、魅力を伝えている。
理科実験中

▼実験はまさに試行錯誤の連続。だからこそ、うまくいったときの喜びが大きい、と柳田氏。
理科実験中

▼子どもはもちろん、多くの場合、付き添いのはずの親も夢中になってしまうそう。
理科実験中


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