あらすじ
手塚治虫、藤子・F・不二雄、永井豪、赤塚不二 夫などの作品を哲学の観点から読み解く。マンガの表現方法の秀逸さを理解するとともに、相対主義、時間論、神の不在証明など、現在の哲学を理解する上で欠かせない重要な理論にも触れることができる。
永井均ってどんな人?
1951年、東京生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。専攻は哲学や倫理学。『〈私〉のメタフィジックス』、『これがニーチェだ』『転校生とブラック・ジャック』など著書多数。現在は、日本大学文理学部教授を務める。

マンガを題材にして物事を深く考える
多くの子どもにとって、マンガは身近な存在。一方、世間では「マンガなんて……」と、ちょっと見下すような風潮があるのも事実です。「だからこそ、少し挑発的な意味も込めて、"マンガで物事を深く考えてみよう"という提案をしたいと考え、この本を選びました」と語る麻布中学校・高等学校の中島克治先生。「子どもは、いつまでも無邪気なままではいられません。子ども同士の世界に大人のルールが入り込んできたり、大人びた友だちが増えてくるといった変化が生まれます。価値観が多様になる中で、戸惑いを抱える子どもは少なくないでしょう。そうした揺れ動く心をマンガは突いてきます」 本書では、マンガ作品が持つシニカルな視点や巧みな表現方法、哲学的なテーマなどを解説しています。「文中で使われている言葉には難しいものがあり、小学生には理解しにくい部分もあるでしょう。しかし、多くの子どもが日頃漠然と感じているマンガの魅力を強く後押ししてくれる力を感じさせます。この本を読むことで、自分が楽しんできたマンガ作品に対して、哲学的な見方ができるようになるかもしれない。思想的なバックボーンが生まれるかもしれない。そうした可能性を秘めていることが、子どもにとってスリリングな体験になるのではないでしょうか」

麻布の生徒たちも頭を悩ます深いテーマ
この本の中で、中島先生が特に勧めるのが第2章。体が腰の辺りでくっついている双子の姉妹を主人公にした『半神』(萩尾望都作)が取り上げられています。「無垢で天使のように美しいユーシーと、勉強好きながら容姿に自信が持てない姉のユージー。ユージーは妹に強い憎しみを抱きますが、分離手術を経て、ユーシーは次第に衰えていきます。一方、ユージーの容貌は、徐々に美しくなっていくのです」 そして、妹がこの世を去り、彼女そっくりになったユージーは、鏡を見て涙を流します。「彼女は”死んだのは誰か?” ”憎んでいたのは、愛していたのは誰なのか?”と自問します。著者はその場面を取り上げて、双子の間に生まれた愛と憎しみの成立条件や不確かな『自分』という存在について解説しています」 中島先生は、この作品を授業でも扱ったことがあるそうです。「生徒には最初にマンガを読ませました。その後に、永井氏の文章を読ませて感想を聞いたところ、多くの生徒は『よくわかんない』と。けれど、つまらないと感じたわけではなく、むしろ魅力を感じながらも、うまく言葉にできないもどかしさを感じていたようです。”自分ってなんだろう?” ”他人との関係の中で決まるのかな?”といったテーマに、生徒が素のままで向き合えた貴重な時間だったと思います」

子ども時代の読書は一生の宝物になる 
本書では『半神』のほかにも、『気楽に殺やろうよ』(藤子・F・不二雄作)を用いて相対主義を考えたり、『伝染るんです。』(吉田戦車作)を例に挙げて哲学者ウィトゲンシュタインの概念を解説するなど、新たな価値観に出会うヒントが散りばめられています。「この本を読んでから題材にされている作品を手にするのも、最初にマンガを読むのも両方アリだと思います。マンガにはただ読んで楽しむだけではない、『分析する』という楽しみがあることを感じ取ってほしいですね」 中島先生自身も小学生の頃、マンガに夢中になった時期があります。そして、「それは決して無駄な時間ではなかった」と振り返ります。「親の中にはマンガの悪影響を心配する方がいるかもしれませんが、私は〝マンガの世界は現実とは違う?と自覚して楽しんでいました。限度はあると思いますが、空想の世界へ自由に行き来できる貴重な機会を、あまり奪わないほうがよいのではないでしょうか」 また、子どもに読書を勧めるときの工夫としては、「本の内容を読んで聞かせるのがオススメ」と言います。「親も忙しい方が多いと思いますが、本の世界に存分に浸れる体験を、できる限り子どもに与えてほしいと思います。こうした経験は大きな宝となります。将来にわたって本に親しむことができるようになり、自分の世界を広げる姿勢も自然と身につくことでしょう」


『野火』

大岡昇平【著】
54 年刊/新潮社/ 340円

田村一等兵は、敗北が決定的となったフィリピン戦線をさまよう。極度の飢えに襲われ、敵軍への投降に揺れる心情を描いた戦争文学の代表作。本作の最後では、『ひかりごけ』の著者・武田泰淳が解説文を寄稿する。

『ひかりごけ』

武田泰淳【著】
64 年刊/新潮社/ 515円

極寒の海で難破した船員たちは空腹と寒さに襲われ、 ついに惨劇が起こり……。亡くなった船員、生き残った 船長など、どの登場人物に焦点を合わせるかによって 幅広い読み方が楽しめる。表題作のほか3 編を収録。

『坑夫』

夏目漱石【著】
76 年刊/新潮社/ 452円

恋愛のトラブルが元で家を出ることになった主人公は、 ひょんなことから炭坑で働くことを思い着く。主人公が 闇に支配された坑内を下っていく様子を描きながら、 彼の心情をあぶり出していく。

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