世界銀行駐日特別代表

谷口 和繁氏
1955年東京生まれ。東京大学法学部学士取得。1981年スタンフォード大学にてMBA取得。財務省に入省し、主に国際金融を担当。2008年より現職。

谷口氏の10歳→20歳

どんな子どもでしたか?

10歳の頃
9~10歳の頃アメリカに住んでいました。10歳のときには東京オリンピックが開かれ、世界との距離が近づいた気もしました。いずれは世界を舞台に何かをしたいという希望を違和感なく持てましたね。とはいえ勉強よりも遊びに熱心で、落ち着きのない子どもでしたが(笑)。

何をしていましたか?

20歳の頃
「使える英語」を必死に勉強していた時期。夜間に英会話学校に通い、聞き取りや話す力を磨いていました。また、法学部で勉強もたくさんしていました。後に、世の中全体をよくしたいという思いから財務省を志すのですが、この頃は困っている人に無料で法律相談をする活動もしていました。

2013年現在→ 社会の豊かさはあるも、経済成長率は低迷


日本の強みを見直し世界市場に発信する

皆さんは「世界銀行」という名前を聞いたことがあるでしょうか。 

世界銀行は、私たちが普段利用する銀行と同じように、資金の運用や投資などを行うのですが、注目すべきはその投資先。発展途上国の成長、生活水準の向上に必要な資金協力を行い、貧困のない世界を目指しています。日本も、戦後、新幹線や黒部ダム建設などで世界銀行から資金や技術の援助を受けました。現在は世界銀行第2位の出資国として、重要なパートナーの位置を築いています。そんな世界銀行について広く知ってもらうための広報業務が谷口和繁氏の仕事です。「世界銀行が取引する相手は国家です。その国が成長するために必要なものは何かを考えるところからプロジェクトはスタートします。資金を用立てるだけではなく、開発計画や人材育成など、業務はとても幅広いものです」 

東日本大震災後には、世界でも防災の意識が高まりました。そこで生まれてきた発想が「投資としての防災」。「この発想は、日本では古くからありますが、世界的に見れば新しいもの。防災にコストをかけることは、災害で甚大なダメージを受けた場合の復興にかかる費用を考えれば、とても有意義な投資であると言えます。"健康"に投資するほうが、病気になってからお金を使うより安上がりということと似ているかもしれませんね」 

昨年は、谷口氏がコーディネーターとなり、世界中の財務大臣や防災の専門家を仙台に招き、防災特別会議が行われました。「日本人は実感がわかないかもしれませんが、日本は世界有数の防災技術を持っており、防災意識も他国より遥かに高い。日本から防災を学ぼうとする国は多いのですよ」 

普段は意識しないような「日本の強み」こそが、日本経済を変える起爆剤になると谷口氏は考えています。「いくら不景気といっても、私たちが豊かに暮らせているうちは、本当の意味での問題意識は生まれません。日本の経済成長率が横ばいを続ける一方、世界経済は常に動いています。10年前は日本の3分の1の経済規模だった中国も、今では日本を超えて世界第2位の経済大国になっていますね。そのほか、インドやインドネシア、中南米、アフリカなど、ここ数年での経済成長率が著しい国はたくさんある。目の前の豊かさに惑わされず、世界のマーケットと積極的につながって、ハングリーに経済成長を求められるかが、日本経済を好転させる条件となるでしょう。そのためには、防災のような、日本が持つ優秀なコンテンツを発信して、世界と勝負していく必要があります」

人口減少で国内経済が縮小。活路は海外に

より多くの国を知り英語と数学を磨く

10年後の日本経済を考える上で、避けては通れない大きな問題があるそう。「10年後は、日本の人口が本格的に減り始めるタイミングです。少子高齢化を受け、働き手が減り、国内経済がどんどん縮んでしまうことは間違いありません。日本の借金は増え続けていますが、それを返済するのは今の子どもたちです。何の対策もとらないままだと、ギリシャのように財政破綻してしまう可能性もあります」先行きが明るいとは言えない日本経済。解決の策はないのでしょうか?

「日本国内の市場は縮まりますが、世界にはまだまだ成長する国がたくさんあります。企業は海外に打って出て、世界の富を日本に取り込む戦略をとらなければいけません。世界と競えば、相対的に弱い産業が負けてしまうこともあるでしょう。しかしそれを恐れていては、八方ふさがりになるばかり。思い切ってチャレンジする必要があると私は考えています」 

もうひとつ、経済を成長させるためのポイントがあると言います。そのカギとなるのは女性の活躍。「世界的に見ると、日本はまだまだ女性の活躍の場が少ない国です。子育て支援策などの社会環境を整え、女性がもっと活躍できる世の中にすれば、働く人の数も増え、経済にも好影響を与えるでしょう」 

10年後、世界と仕事をする時代になったとき、必要な力とは?「まずは英語力。使える英語を身につけなければ、同じ土俵に立つこともできません。また、日本は世界的に見ても実は数学が得意な国です。数学の力は、国境を越えて武器になりますから磨いておいて損はありません」 

わが子が世界で通用する人物に成長するためには、親も、世界を意識しなければいけません。「子どもの頃から世界を見せてあげることで、視野が広がります。ただし、これからはロンドンやニューヨークだけで経済が動くわけではありません。世界で活躍することを考えると、むしろインドやアフリカなど、今後成長していく国に赴任する可能性のほうが高くなります。今までの常識にとらわれず、できるだけさまざまな国に興味を持たせてあげられるといいですね」

東京工業大学大学院フロンティア研究機構&応用セラミックス研究所

細野 秀雄教授
工学博士。東京都立大学大学院工学研究科博士課程修了。名古屋大学工学部助教授、東京工業大学助教授、分子科学研究所助教授などを経て、現職。

細野氏の10歳→20歳

どんな子どもでしたか?

10歳の頃
科学の実験が好きな小学生。砂糖と塩を混ぜると味がなくなると思っていたのに、実際にやってみると両方の味がするのが不思議でならないと考えている子どもでした(笑)。好奇心が旺盛であったことから「新聞記者になりたい」と思っていた頃もありました。

何をしていましたか?

20歳の頃
工学部の学生でしたが、理学系の分野もおもしろくなって、とにかく勉強に打ち込んでいました。当時はまだ研究者になる意志を固めていたわけではなく、単純に学問が好きでそういった生活を続けていたんです。結果的には、研究者としての土台を作った時期でしたね。

2013年現在→ 充電に便利な省電力型のスマートフォンが話題に


ガラスのテーブルがテレビ画面になる

元素同士を組み合わせ、世の中の役に立つ新しい材料を研究する、材料科学という学問分野があります。細野秀雄氏は、さまざまな新しい材料の発見と開発を行い、何度も世間をあっと言わせてきました。その研究成果は海外からの注目も集めており、アメリカの科学雑誌『サイエンス』から、科学の世界を一変させるような研究に与える「ブレークスルーオブザイヤー」にも選ばれています。 

その成果のひとつが「電気を通すガラス」。電気製品に使われる半導体はこれまでシリコンを材料として作られてきました。ガラスは本来、電気を通さない物質ですが、電気を通すガラスで作った半導体は、シリコン製よりも高性能であり、かつ効率的な製造が行えます。 現在話題になっている、消費電力を抑えることで充電の頻度を低くできるスマートフォンには、ガラスの半導体が使われています。従来のスマートフォン画面は、画面が表示されずオフになっている状態でも、電気を流しておく必要があったのに対して、新半導体であれば、画面がオフのときには電気を流さなくてすむのです。「テレビやパソコンなどの画面をディスプレイと呼びますが、ガラスは透明なので、ディスプレイに用いると明るく表示できるメリットもあります。将来的には、窓ガラスやガラスのテーブルをテレビやパソコンの画面にするといった使い方も出てくると思います。スマートフォンはどんどん進化して、みんなが普段使っている下敷きのように薄くなるでしょうね。硬い板でなく、曲げられるという特性を備えているものも登場してくると思います。ポスターのようにくるくると巻いて片づけたり、折りたたんで持ち運んだり……。今あるスマートフォンとはまったく違うものができていると思います」 

さらに「鉄」の使い道を増やす研究成果も、細野氏の大きな功績です。 

物質の温度を極端に下げたとき、その物質の電気抵抗がゼロになる「超伝導」という現象を聞いたことがありますか? 科学の世界ではこれまで鉄と超伝導は相性が悪いとされてきました。物資の中にわずかでも鉄分が含まれていると、超伝導が作用しなくなってしまうからです。細野氏の研究室では、鉄の成分を含む物質の超伝導化に世界で初めて成功。電気抵抗がゼロになるという超伝導の性質は、電力の損失を少なくするという点で省エネにつながり、多くの産業界が注目しています。「送電線などの設置に役立てられるのは言うまでもありませんが、医療機関で人体の断面図を撮影するのに用いられているMRIや、車体が宙に浮いた状態で走行するリニアモーターカーの開発においても、超伝導研究の進化が重要なカギとなります」 

磁気浮上式のリニアモーターカーは、長年にわたって「夢の未来技術」とされてきました。細野氏は、その開発が今後10年で一気に加速し、普及に向けた実用化が進むものと見ています。「JR東海がリニア中央新幹線の開業計画を発表して、2020年頃には神奈川県相模原市と山梨県甲府市の間で先行開業が予定されています。東京大阪間をおよそ1時間で結ぶことのできる未来は、すぐそこまで来ていると言えるでしょう」

下敷き型ディスプレイや時速500㎞の新幹線も

社会の問題を解決して未来を変えるのも科学

よりよい未来を創造する科学の力。ところが、世の中には「環境汚染や健康被害が起きるのは、科学の進歩のせいだ」と言う人たちもいます。細野氏はそういった意見に対し、科学者として真っ向から異を唱えます。「科学の進歩が問題なのではなく、実は進歩が不完全で途中段階にあることが問題。環境に負荷をかけない製品を作るのもまた、科学の力だと私は思います」

あらゆる物質の中から私たちの暮らしに役立つものを生み出して、より便利で快適な未来を拓く。その一方で、「どこにでもある物で、社会が抱えている問題を解決するのが材料科学の使命」と細野氏は言います。「より便利なディスプレイは生活を向上させてはくれますが、食糧危機などの根本的な問題は命にかかわります。今の日本の食糧自給率は40%を割り込むほど低く、非常事態で海外からの食糧供給が断たれれば、私たちはすぐに飢餓に陥ることになるでしょう。そのために、農作物を一般家庭でも手軽に作れるようにする材料開発にも、真剣に取り組んでいるところです」 

最後に、「大事なのは時流に流されず、自分のすべきことを考え続ける姿勢」と、細野氏はアドバイスしてくれました。「薄型テレビの普及時、多くの会社が開発に躍起になったのに、今はほとんどが撤退しています。人気分野の仕事が10年後にあるとは限らない。だからこそ、常に新しいこと、誰もやっていないものを探しながら専門性を磨く気持ちが大切。そして、長く続けていくためには、好きなこと、やりたいことに取り組むのが何よりなんです」

東京大学大学院情報理工学系研究科教授

江﨑 浩氏
九州大学工学部電子工学科修士課程修了。株式会社東芝、米国ベルコア社、コロンビア大学客員研究員、東京大学大型計算機センター助教授などを経て、現職。

江﨑氏の10歳→20歳

どんな子どもでしたか?

10歳の頃
学校の成績は優秀なほうでしたが、一時期いじめにあったこともありました。ますます勉強をがんばって「見返したい」と考えていましたね。将来については、当時はまだ漠然とした思いしかなく、「何か世の中の役に立つことがしたい」という気持ちでいたのを覚えています。

何をしていましたか?

20歳の頃
兄の影響で高校生の頃にラグビーを始めたのですが、大学時代も勉強の一方でラグビーに夢中になり、キャプテンを務めました。チームワークの重要性を学べたのはラグビーのおかげ。人の先頭に立ってリーダーシップを発揮する経験から、「経営者を目指そう」と考えた頃でもありました。

2013年現在→ コンピューターネットワークのクラウド化が進行中


道路とクルマが連携し自動運転が可能に

インターネットが産声を上げた1980年代、東芝でエンジニアとして活躍し、米国へ渡って研究者としても研さんを積んだ江﨑浩氏。元副大統領でノーベル平和賞受賞者のアル・ゴア氏が提唱した高速通信回線技術「情報スーパーハイウェイ構想」の立案に携わるなど、とても重要なプロジェクトに参画した経歴の持ち主です。 

インターネットの普及に伴う情報技術社会の進化を、最前線で目の当たりにしてきた江﨑氏は、10年という時間経過の実感をこう語ります。「パソコンの形状の変化を考えるとわかると思いますが、ハードウエアの大きさは、10年経つとおよそ10分の1になるんです。その一方で、性能は10倍になる。驚異的な進化のスピードと言えるでしょうね」 

光ファイバーを活用した超高速ブロードバンドが普及した現在。これから10年後、インターネット技術はいったいどのような変ぼうを遂げているのでしょうか? 

パソコンや携帯にデータを保存するのではなく、インターネット上に置き、いろいろな場所からアクセスしてデータを閲覧したり編集する「クラウドコンピューティング」。この概念がさらに進化するであろうと、江﨑氏は考えています。「実際には、ぼう大な容量を確保できる場所にデータを集約するわけですが、それ自体も流動的なシステムになるのではないでしょうか。つまり、いつでもどこにいても、今よりもさらに空間的・時間的な制約を受けずに必要な情報を引き出せるようになります」 

そのような変化は、教育の方法に大きな変化をもたらすことになり、たとえば、あらゆる世界のトップ人材が持てる知識とノウハウを、オンラインで公開するような授業も可能になるそう。すでにMITやハーバード大学の著名な先生の講義はオンラインで聴講することができるようになってきています。「ただし、情報をしっかりと自分のものにするにはフェイストゥフェイス(対面)が一番。成長にはコミュニケーション力が重要であることには変わりがない。日本はIT技術では諸外国にひけをとらないし、個別には最先端の分野もある。問題は、将来を担う若い人たちが外に出ていかなくなったこと。諸外国と互していくには、"世界の中の日本人"として積極的に海外と交流する必要があります。出会いを求めて世界へ飛び出し、とりあえず経験してみよう、という気持ちが大事です」 

さらに江﨑氏は、次のような展望も明かしてくれました。「20世紀のインターネットは、コンピュータを使って人と人を結ぶものでした。それに比べて、これからのインターネット技術は、モノと人をつないだり、モノとモノをつなぐために活用されることになります」 

人をあらゆるモノとつなぐために、目で見る情報や耳で聞く情報だけでなく、インターネットを介して匂いや味覚や手触りなども伝える技術が発達していくそうです。事実、触覚を再現することで、離れた場所にいる患者の手術を行う医療技術の研究開発が、国内ですでに始められています。危険な場所における作業が必要となる場面でも役に立つ技術となるでしょう。 

モノとモノをつなぐインターネット技術が進化すれば、道路とクルマが勝手に情報をやりとりしてくれるため、人間が自ら運転をしなくてすむようになる社会もやってくると江﨑氏は語ります。「夢物語のように思えるかもしれませんが、情報ネットワークを駆使した自動運転技術は、すでにアメリカで着々と研究が進んでいるんです。そして、10年後というわけにはいかないかもしれませんが、人の脳を直接ネットワークにつなぐ日が、そのうちやってくるのではないかと思います」

視覚と聴覚以外にも訴える技術に進化

部屋からすべてのコンセントがなくなる

インターネット分野のパイオニアとして、わが国の技術革新を先導してきた江﨑氏は、電力・通信インフラの最適化に配慮した建物「スマートビル」の実現にもいち早く着手しました。先端情報通信技術を駆使して省エネを進めるために、2010年に立ち上げられた「東大グリーンICTプロジェクト」もそのひとつです。「省エネという観点から言えば、私たちが今いるこのビルは、年間30%の電力削減を達成しています。運営コストにして年に3000万円の節約が可能になり、東大全体では十数億円もの削減につながりました」 

未来技術の礎となるプロジェクトの目的は、省エネばかりではありません。「将来的には、ビルの空間ごとに光、音、空調などを自在に操り、利用者の目的に合わせた最適な環境を作れるようになります。天井からは蛍光灯が消え、熱を発しないLEDライトが照らしたいところだけを照らす。指向性の高いスピーカーは部屋の中の必要なところにだけ音を届ける。配線の煩わしさを生むコンセントもなくなって、電力供給は無線状態で行われます。快適さと使い勝手のよさを兼ね備えたオフィスや居住空間が10年後には大勢の人のものになるでしょう。しかしこのような快適で創造的な環境・空間は、ひとつの装置や一人では作り出すことができません。みんなが同じ能力を追求してもいけません。自分の役割を全うし、チームで取り組むことで初めて実現可能となるのです」

京都大学再生医科学研究所 教授

河本 宏氏
1961年京都生まれ。京都大学医学部卒業。1993年京都大学大学院にて博士号取得。2002年3月より理研免疫アレルギー科学総合研究センターチームリーダー。2012年4月より現職。

河本氏の10歳→20歳

どんな子どもでしたか?

10歳の頃
独自に植物の研究をしていた父親の影響で、研究者になるのが夢でした。その頃は植物を育てることも好きで、母親にお願いして、誕生日プレゼントに植木鉢を買ってもらったことも。一方、マンガやアニメも大好きで、テレビアニメやヒーローものは欠かさず観ていました。

何をしていましたか?

20歳の頃
大学時代は、テニス部、漫研、軽音、美術部と部活をかけもちしていました。「勉強は将来必要になったときにやればいい」と考えていた気楽な学生でした。医学部でしたので、将来の道筋はついていましたが、基礎研究者になるか、医者になるか、迷いもありました。

2013年現在→ 転移したがんに有効な治療法が確立されていない


完治できない病気に期待される再生医療

一般的な病気は、薬や手術で治すことが可能です。しかし、がんや心臓病など、完治するには限界のある病気も、数多く存在しています。そこで、これまでとは全く違う治療法として期待されているのが再生医療です。「そもそも病気は、身体の中にある組織が傷んでしまうことが原因で起こります。これに対して再生医療は、人工的に新しい組織を作り出し、傷んだ組織と入れ替えてしまうのです」と語ってくれたのは、京都大学再生医科学研究所の河本宏氏。 

この再生医療によって、たとえば、やけどした皮膚を新しく入れ替えたり、けがで途切れてしまった神経をつなぐこともできると言います。河本氏は、そんな再生医療の中でも、がんに有効だと考えられている免疫細胞の研究に取り組んでいます。この研究を始めた一番の理由は、河本氏が内科医だった時代から、がん患者を助けたいという思いを持ち続けてきたこと。 

「現在の主ながん治療は、手術、抗がん剤などの化学療法、放射線療法の3つ。それらの治療法でがん細胞を除去したり、小さくするのは可能です。しかし、がん細胞が身体のほかの組織に移転してしまうと、従来の方法では手も足もでないのが現状です」 

一方、免疫細胞を用いた再生医療では、身体の組織を作る幹細胞の働きを利用して、転移したがん細胞でも狙い撃ちすることができるそう。その治療法を確立するため、幹細胞を人工的に作り出す研究が進められています。「海外では、人の受精卵を利用して作られる幹細胞の一種、ES細胞の研究が進んでいます。しかし人の受精卵から作るという点で倫理的な部分がネックになり、日本でのES細胞の研究は遅れていました」 

そんな中、京都大学山中伸弥教授が開発したiPS細胞が登場、幹細胞研究は大きく塗り替えられたと言います。「iPS細胞は、ES細胞とまったく同じような幹細胞で、身体の細胞から作られます。またiPS細胞はES細胞と違い、患者さん自身の細胞から作ることもできるので、再生医療の可能性が大きく広がったのです」 

河本氏は、iPS細胞をがん治療に役立てることができないかと着目。がん細胞をやっつけてくれるキラーT細胞という免疫細胞から、iPS細胞を作り出そうという試みでした。「キラーT細胞は、がんの患者さんに必ず備わっている細胞です。現在行われている免疫療法では、キラーT細胞を増やすことができても、がんを攻撃するだけの数には至らないのが課題でした。そこでiPS細胞を利用することにより、キラーT細胞と同じ働きを持つ免疫細胞ができるのではないかと考えました」

iPS細胞を応用し、がんの標準治療になる可能性も

子どもの頃の感性が豊かな発想力に

河本氏の研究は見事に成功。キラーT細胞から作ったiPS細胞で、元気な免疫細胞を作ることができると解明されました。その論文は、世界的な権威を持つ科学誌にも掲載され、大きな話題となりました。 

次の10年に向けての目標は「試験管内だけではなく、生体を使って研究を続ける必要があります。すぐに人間の身体で実験することはできないので、まずは動物実験などを重ねていかなければなりません」。 

となると、iPS細胞を利用した治療が実用化されるのは、まだまだ先の話なのでしょうか?「iPS細胞が長期間働き続ける可能性を実証し、iPS細胞そのものが病気にならないことを保障しなければなりません。有効性と安全性の両方を確立できれば、もしかすると10年後には、がんの標準治療になっているかもしれません。これまでのがん治療とはアプローチの仕方がまったく違いますので、アイデアとしては有効だと思いますし、推進していくべきです」今後、大きな注目を集めるであろう再生医療。将来、その再生医療に携わりたいという子どもに、河本氏は、「子どもの頃の豊かな感性を持ち続け、発想力を養ってほしい」と話します。 

そのためにも、子どもには趣味の時間を持たせることが大切だと言います。「海外の研究者は、科学だけではなく、映画や本、音楽などのカルチャーも楽しみ、スポーツもできる人が多いです。お母さん方は歓迎しないかもしれませんが、子どもたちがマンガやゲームに興味を持つことも、決して無駄ではないと思います。むしろ日本のアニメは世界的に見てもハイレベル。一流のものに触れさせてあげることは大切です」 

実際に河本氏も、子どもの頃からマンガを読んだり、絵を描いたりする時間を必ず作っていたそう。今もマンガや絵を描くことが大好きで、免疫細胞の研究発表には自身で描いたイラストを使っています。「文化やスポーツは、世界共通言語のようなもの。世界に通用する一流の研究者になるためにも必要な要素です。豊かな感性を磨くためにも、小中高の若いうちに好きなことをさせてあげるのは大切だと思いますね」


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