ほめられて初めて自分の長所に気づく
教育の現場や雑誌、書籍などでは「子どもはほめると伸びる」とよく言われますが、親がほめることで、子どもにどのような変化をもたらすのでしょうか? また、学力アップにどうつながるのでしょうか?
子育てやコーチングに関する著書を数多く執筆する江藤真規氏は、次のように話します。
「多くの人はほめられると、居心地がよくなりますよね。すると、幸せな気持ちになって、自分が今持っている力を100%発揮できるようになります。また、ほめられるというのは、自分の長所に気づくチャンスでもあります。私には娘がふたりいますが、それぞれの長所を見つけて声をかけると、子どもは自信を深め、さらに努力するようになりました」
その娘たちが東京大学を卒業し、今年の春からは江藤氏自身が東大大学院に通うことに。
「大学院受験にチャレンジして、受験生の気持ちがよくわかったんです。勉強をがんばっているのに、思うような成果が出ない。そんなときに、娘から"いつもがんばっているよね"とほめられると、涙が出そうなほどうれしくて! おかげでハードな勉強も乗り切れました」
中学受験に挑戦する家庭を数多く取材してきた教育ジャーナリストの清水克彦氏も、「子どもは親や先生にほめられることで、自分の強みに気づく」と話します。
「多くの子どもは大人に比べて、自分を客観視することが上手くできません。そのため、親が〝理科の問題はいつも解けてるよね" "計算問題はほとんど間違えないね"などの声かけが欠かせません。そして、子どもが自分の強みを自覚し、学習へのモチベーションがアップすれば、自分に足りない部分にも自然と目を向けられるようになります。つまり、子どもの長所をほめることは、苦手科目を克服することにもつながるのです」
さらに、精神面のプラス効果についても言及します。
「難関校に合格したすべての家庭が、子どもをものすごくほめていたのかというと、そうとは言い切れません。しかし、要所要所でほめ言葉や励ましの言葉をかけて、子どもの気持ちを安定させていました。受験生が勉強をがんばる理由はさまざまですが、"親に認められたい" "もっとほめられたい"という気持ちが原動力であるケースも多いと思います。親がほめ言葉を通して、"いつもあなたを見ているよ"というメッセージを伝えることで、受験生が抱えるプレッシャーは弱まり、勉強に集中できるのではないでしょうか」(清水氏)

ほめるポイントは結果よりも過程
では受験生をサポートする親は、具体的にどのようなほめ方を心掛けるとよいのでしょうか? 江藤氏は、「結果よりもプロセスに目を向けてほしい」とアドバイスします。
「中学受験は、長い間努力を積み重ねて、高いハードルを飛び越えようとする一大チャレンジです。がんばっている子どもほどプレッシャーも大きく、家庭に居心地のよい空気を求めているように感じます。テストの点数や偏差値などの分析は塾に任せて、"塾を休まずに通っているね"など、まずは努力している姿勢に目を向けてはどうでしょうか」
清水氏もこれまでの取材経験を踏まえて、「志望校に合格した子どもの親は、努力の過程に目を向けている」と話します。
「たとえば、テストで高得点が取れたとき、子どもに理由を考えさせるようなほめ方をしています。"毎日宿題をがんばったから高得点が取れたんだね"と言うのではなく、"今回の出来はすごいね! どうして高得点が取れたのかな?"と質問する。そうすることで、子ども自身が過程の大切さを意識するようになり、さらなる学力アップにつながります」
清水氏は、努力の過程をほめるときのポイントとして、以下の2点を挙げます。
「まずは、子どものよいところを具体的にほめてください。日頃の学習態度をよく観察して、"図形をきれいに書こうとしている" "国語の記述問題を丁寧に解こうとしている"など、努力している姿を具体的に指摘してあげましょう。また、以前と比べて成長したところをほめるのもオススメです。"春先よりも問題を解くスピードが上がった""前回のテストよりも漢字を丁寧に書けているね"などと声をかけると、子ども自身が成長を実感できるでしょう」
子どもにほめ言葉をかけるときは、「親が子どもの学力アップを信じることも欠かせない」と、清水氏は強調します。
「アメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールが説いたピグマリオン効果という説があります。ローゼンタールは、ある学校の小学生に知能テストを行い、その中から無作為に数名の生徒を選んで、"この子たちは必ず伸びる"と教師に伝えました。それを信じた教師が、その子どもたちを指導したところ、成績がグングンと伸びていきました。同じような効果は、ビジネスの現場やスポーツの世界でも数多く見られています」




簡単なほめ言葉からチャレンジ!
ただ、子どものがんばりに気づいても、「面と向かって子どもをほめるのが苦手」「上手いほめ言葉がなかなか出てこない」と、悩む親も少なくありません。
「そんなときは、シンプルなほめ言葉を口に出すところからチャレンジしてみましょう。その方法のひとつが『さしすせそ』を使うこと。具体的には『さすが!』『信じられない!』『すごい!』『せっかく○○したのにね(結果が出なくても努力を認める)』『そうだね!』の5つの言葉を、感情を込めて言ってみるのです」(清水氏)
親の中には、大袈裟なほめ言葉を言うことに躊躇する人もいるかもしれません。しかし清水氏は、「子どものパフォーマンスアップには不可欠」と語ります。
「ほめ方にはいろいろな方法がありますが、私は少し大袈裟なくらいほめたほうが、子どもの学力は伸びると思います。テレビやラジオの番組では、出演者のトークがいつも以上に弾むときがあります。その場面に共通するのは、司会者のリアクションが大きいことです。彼らが感情のこもった反応を示すことで、出演者はやる気がアップして、自然とパフォーマンスもよくなるのです」
同じようなことは、スポーツの世界にも当てはまります。「一流のキャッチャーは、ピッチャーの投げる球にキレがないと感じても、すぐには不調を指摘しません。むしろ、"今日も球が来ている" "この調子なら勝てるぞ"など、前向きな言葉をかけて、少しでもパフォーマンスを上げようとします。中学受験では野球のように選手交代はできません。だからこそ、親が前向きな言葉をかけて、子どもを支えることが必要なのではないでしょうか」(清水氏)
一方、「ほめるところが見当たらない」と悩む親に対しては、江藤氏からこんなアドバイスが。「まず、今の子どもの生活を自分ができるか、自問してみてはどうでしょうか。朝早くに起きて学校に行き、授業が終わった後もほとんど休憩時間を取らず塾に通う。そして、家に帰って来るのは夜9時過ぎ。この状況を振り返り、"いつもがんばっているね"と認めるだけで、子どもの気持ちは軽くなると思います」
ただし、子どもの努力を認めて励ますときの言葉遣いには、少し注意が必要です。
「特に"大丈夫だよ"という言葉がけは、時と場合によって、使い方を考えたほうがよいでしょう。私は長女の中学受験で、テストの結果が悪かったとき、娘を励ますつもりで"大丈夫だよ"と声をかけました。すると、"お母さんは全然わかっていない!"と怒られてしまって。小学校高学年にもなると、子どもも自分の実力が判断できるようになります。子どもが悔しそうな表情を見せているときは、まずは"悔しいよね" "すごくがんばっていたのに今回は残念だね"などと子どもの気持ちに共感する姿勢を見せ、それから励ましの言葉をかけたほうが受け入れてくれるでしょう」(江藤氏)

子どものプライドをくすぐるような叱り方を
一方、普段の生活では、子どもをほめるだけでなく、注意しなくてはいけない場面も出てきます。ほめると叱るのバランスはどうすればよいのでしょうか?
「私が主催するセミナーの参加者から、"子どもをほめるということは、叱らない、怒らないことですよね"という質問を受けることがよくあるのですが、それは違います。子どもをほめてやる気を引き出すことは大切ですが、悪いことをしたときはしっかり諭すのが親の役目。子どもをほめるために注意する回数を無理に減らすのではなく、それとは別にほめる回数を積み重ねていくイメージを持ってみてはどうでしょうか」(江藤氏)
ほめ言葉と同じように、叱り方にも子どものやる気を上げるポイントがいくつかあります。
「たとえばテストの点数が振るわなかったとき、"あなたの実力で、この点数はないんじゃない?" "本当の力を出していたら、結果は違ったはずだよ"など、遠回しにほめるような注意の仕方をすると、子どもはやる気を取り戻すと思います」(清水氏)
また、子どもを1回叱ったら、ずるずると引きずらないことも大切なポイント。
「特に母親は、一旦子どもを叱り始めると、芋づる式に過去の出来事まで持ち出してしまいがちです。とても難しいとは思いますが、そこはグッとこらえてほしいところ。私は娘を叱ったとき、"はい、おしまい"とか"これで終わりね"と言って、長引かないように心掛けていました。そのほかにも"さて、お茶でも飲もうか"などと言って、状況をリセットする方法も効果があります」(江藤氏)
子どもをほめるためには、まずは親自身が心にゆとりを持たせないと、なかなか上手くいきません。
「中学受験では、子どもと同じくらい、親も必死で取り組んでいます。けれど、それがずっと続くと、努力の過程に目を向けたり、前向きな言葉をかける余裕を持ちにくくなってしまいます」(江藤氏)
江藤氏は中学受験をサポートしていた頃、自分自身のリフレッシュの時間を取ることも心掛けていたと振り返ります。
「次女が中学受験に取り組んでいたとき、私は彼女の成績や学習態度に満足できず、親子でぶつかることが多かったんです。そんな状況を少しでもよくするために、ジムに行って体を動かしたり、友だちとおしゃべりをして、自分の不安を軽くするようにしました。今、子どもをサポートしているお母さんも、時には自分へのご褒美として、ひとりで過ごす時間をつくってみてはどうでしょうか。そうやって気持ちに余裕が持てるようになれば、子どもの長所にも気づき、無理なくほめられるようになることでしょう」


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