「お花屋さんになりたい」「オリンピック選手になりたい」。子どもは、さまざまな夢を持ちます。子どもが夢を持つということは脳科学的にどういう意味があるでしょうか? そのメカニズムを脳科学の第一人者、林教授に聞きました。

人への憧れやモノへの興味が夢へとつながる

子どもが夢を持ち、実現するために、親がサポートできることは何なのか。それを考えるには、まず脳のしくみを正しく理解することが必要だと林教授は言います。「小学校低学年の頃は、近所のパン屋の店員が好きになり、パン屋さんになりたいとか、ケーキ屋さんになりたいとか、身近なところにある人への憧れやモノへの興味で、将来の夢を持ちます。これは『好きと感じる気持ち』からくるもので、とても大切なこと。脳が発育していくためのスタートです。高学年になるにつれて、興味の対象も変わり夢は高いレベルへとステップアップしていきます」

成長につれ夢が変わっても、本質は同じ。人間は、興味を持ったり感動したりしたときに、高い思考能力を発揮します。「好きという感情から夢を理解し、かなえたいといという気持ちになり、かなえるために何をすればよいかを自ら考える。夢を実現するとは、こういうプロセスをたどることなのです」

こういった、思考や感情といったものが脳のどこにあり、どう発生するかを解明した林教授。それは"心のありか"の発見だったと言います。それでは、脳の考えるしくみを視覚化した脳機能マップで、その"ありか"を詳しく見ていくことにしましょう。

「好きこそものの上手なれ」は脳科学的にも合っている

夢を持ち、実現しようと考えるプロセスは、脳の中にある7つの能力スポットを通して行われると言う林教授。「まず、人は何かを見たり聞いたりした外部からの情報を脳へ伝えます。それが3つの本能を持つ、①の脳神経細胞です。そして、情報は②のA10神経群を通過し、『好き』『嫌い』『ワクワクする』といった"感情"が生まれます」

夢はもちろん、普段の勉強やスポーツも「好き」「おもしろい」といった感情が上達の原動力であることは言うまでもありません。「好きこそものの上手なれ」と昔から言いますが、脳科学からいってもそれは真理のよう。また、夢を持てないというのは、このA10神経群の活性化が行われず、何事にも興味を持てなくなってしまっている状況のことです。「A10神経群で生まれた"感情"は、③の前頭前野に届けられるのですが、ここで大きなふるいにかけられます。忘れてはいけない情報なのか、そうではないのかです。そうでない情報は3、4日で忘れてしまいます。そのふるいの指標が、好き、嫌いといった"感情"。脳は正直で、このしくみに逆らうことはできません。もし夢が無理に与えられたもので、興味を持てなかったらここで潰れてしまいます。前頭前野は情報をふるいにかけ判断・認識する、いわば情報を〝理解.する機能を持っているのです」

前頭前野に届けられた情報は、瞬時に脳全体にフィードバックされます。その際に通過するのが④の自己報酬神経群。ここが、林教授が提唱する、夢をかなえるために大切な「勝負脳」を発揮する脳力スポットです。「脳の考えるしくみのカギを握っていると言ってもよいでしょう。自己報酬とは、読んで字のごとく自分にごほうびを与えること。それは損得ではなく感情を満足させる『やりがい』や『夢』なのです。夢は、自分の力で達成するもの。自分なりの夢を見出し『実現するんだ!』『自分でやってやる!』という自分の強い気持ちを生み出すのです。そして『考える脳』にスイッチが入るのです」

小学5年生あたりの反抗期が、ちょうどこの自己報酬神経群ができあがりつつある年齢です。よく、「早く○○しなさい!」と注意すると「今、しようと思ったのに」と返事が返ってきます。これは自分からやろうとする自己報酬神経群の機能を先に止められてしまい、脳が不機嫌になって自ら考える作業をやめてしまう状態。ここでさらに怒るのではなく、「うちの子にも自己報酬神経群ができあがってきている。成長している証拠だ」と受け止めましょう。子どもにああしろ、こうしろと言うのは禁句なのです。

「夢」を持つことは脳が開発されている象徴

「情報が③の前頭前野からフィードバックされるときの回路、前頭前野、A10神経群、海馬回といった神経群の連合体を⑤⑥のダイナミック・センターコアと名づけました。情報は、ダイナミック・センターコアに持ち込まれることで「考える」という作業を生み出し、これこそが、脳の「考える」メカニズムの中枢、"心が生まれるしくみ"だと考えたのです。自己報酬神経群で生まれた「やってやる!という気持ち」が、ここで心に変換される。つまり、「将来○○になるぞ」という"気持ち"が、そのために「○○を勉強しよう」と考える〝心.に変わるのです」

⑤と⑥に分けたのは、ダイナミック・センターコアには、「独創的思考を磨く」ということと「人間性を高める」という2つの役割があるから。独創的思考は、問題を解決したり、新しい考えを発想したりするのに欠かせません。また、その実力があっても人間性が備わっていないと、いざというときに力を発揮できないのは、社会において周知の事実でしょう。「そして、最後が⑦の海馬回・リンビックです。ここは記憶機能を司る能力スポットです。すでに述べましたが、重要でないと判断した情報は記憶から消去されるメカニズムになっています。ですから、子どもが覚えるべきことは、子どもが好きになるように工夫することが必要なのです」 子どもは脳の成長とともに、子どもが好きなこと、興味のあることは自ら考え行動するようになります。夢はその考える〝心.の象徴でもあるのです。

子どもの夢は否定せず3つの本能を鍛える

子どもにとって、かなえたいと思う夢を持つことは脳を開発していくうえでも大切なことがわかりました。夢を持つには、興味や好きという感情が不可欠。どうすれば、その感情を持たせることができるのでしょうか。「まずは、本能を鍛えること。本能とは『生きたい』『知りたい』『仲間になりたい』です。『生きたい』には自分を守ろうとする過剰な『自己防衛本能』が後天的に発生します。ですから、子どもを叱ったり、夢中になっていることにダメ出ししたりばかりではいけません。叱った後は必ずフォローが必要です。叱られてばかりだと、困難からすぐに逃げてしまう逃避脳が鍛えられることになってしまいます。まずは褒めること。子どもが抱いた夢については、どんな夢であっても、まずは一緒に興味を持つことです。『仲間になりたい』という本能もありますから、ときには一緒に羽目をはずして身近な「仲間」でいることも必要です。そして、夢については一緒に語り合うことです。これも仲間になっていろいろなことを『知りたい』という本能を鍛えることになるのです」

「勝負脳」を鍛えて夢の実現に向かわせる

次に大切なのが、子どもの脳にある「自分で考え決断・行動しようとする力」をいかに効果的に引き出すかということ。林教授が提唱する「勝負脳」の鍛え方です。夢を実現しようとする強い気持ちを作るには、いくつかのことを習慣化することだと言います。「まず、"否定語は使わない、悪口は言わない"こと。否定はネガティブな感情しか生みません。ネガティブな情報では、A10神経群をはじめとするダイナミック・センターコアは反応せず、思考は生まれません。ネガティブな情報ばかりを得ていると脳の機能がゆがみ、意欲も思考力も低下してしまう。悪口も同じです」

また、普段から失敗してはいけないと考えていると、そこに否定語の思考が生まれると言います。「これを避けるには、勝ち負けといった結果にこだわる成果主義を止めることです。勝ち負けではなく、そのプロセスである"勝ち方にこだわる"。そうすれば、失敗しても、足りない点を見つけるチャンスだと考えられるようになります」"目的と目標を明確にする"ことも大切です。目的とは、最終的に到達したい成功のイメージ、目標はその目的を達成するために具体的に何をするかということ。「医者になりたい」という夢(目的)をかなえるために、具体的に何(目標)をすればよいかを考えられるようになれば、結果でなくプロセスにも集中できます。これは夢だけではなく、勉強やスポーツなどでも、目的と目標を持つことを習慣づけるべきだと林教授は言います。

そして、"コツコツやらずに、一気呵成に全力投球する"こと。「人間の脳は『一気に駆け上がる』のが特徴です。コツコツやって、もう大丈夫、あと少しで完成と思った瞬間、ペースが落ち、目的を達成できないことがあります。この油断が大きな落とし穴なのです。途中でゴールへの意識を持つと、瞬時に脳の血流が低下し、さまざまな能力にブレーキがかかってしまうのです。ですから、一気に駆け上がる習慣を持つことが大切なのです。一気に駆け上がるには全力投球すること。この習慣は、本番に力を発揮することにもつながります」

最後にぜひ心がけたいのは、"親も夢を持つ"ことだと言います。「仕事でも趣味でも何でもいいんです。夢を実現するためのプロセスを子どもに見せ、『自分はこうして夢をかなえようとしている。お前はどうする?』と"子ども自ら考え行動するような質問をする"ことです。夢を持つと人間は生き生きとしてきます。親の前向きな姿勢は、子どもの脳にもよい影響を与えます」 脳のメカニズムをしっかりと理解し、アプローチしていくこと。それが、夢を実現できる「脳」を子どもが持つための、親の大事なサポートなのです。

林 成之
脳神経外科医、日本大学大学院総合科学研究科教授。脳低温療法で世界から注目を集める。『脳力開発マップのススメ』『脳に悪い7つの習慣』など著書多数。

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