親と子どもは、顔や好みが似ている場合が多いですが、そもそも親子はなぜ似ているのでしょうか。また、親子で似ていない部分もあるのは、なぜなのでしょうか。遺伝の不思議について、お茶の水女子大学の滝澤公子先生に話を聞きました。

滝澤 公子先生
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科遺伝カウンセリングコース講師。
NPO法人「遺伝カウンセリング・ジャパン」の理事も務める。

――遺伝が持つ多用性にも目を向けてみよう

親から子どもへ形質が受け継がれる

子どもを持つ親なら、「この子のこの部分は、私に似ているなあ」と感じた経験が、これまでに何度もあるのではないでしょうか。自分の長所や得意分野だけではなく、短所や苦手分野が子どもに受け継がれていると感じることもあるでしょう。

では、子どもの能力や性格は、どのくらい親に似るのでしょうか。「それを考えるためには、まず遺伝の仕組みについて、理解しておきましょう」と、お茶の水女子大学の滝澤公子先生は話します。

「遺伝とは、親の形質(形態や性質)が、子どもに伝えられる現象です。カエルの子は、必ずカエルであり、ヘビやトカゲにはなりませんよね。それは、種の持つ固有の性質を次世代に引き継ぐのが、遺伝の役割だからです。ただし、同じカエルでも、一匹ずつ色や大きさなどが、少しずつ異なります。このように、同じ種類の中で多様性を作ることも、遺伝の大切な働きです」

遺伝に関する話題やニュースが取り上げられると、多くの場合、「遺伝子」や「DNA」と言ったキーワードも登場します。このふたつが、遺伝とどのように関わるのか理解することも、重要なポイントです。

「メンデルという司祭が、1865年に遺伝の法則を発表し、『次世代に形質を伝える因子があるのではないか』と考えたことから、遺伝子という概念が生まれました。私たちの命は、精子と卵が受精するところから始まりますが、精子と卵は、それぞれの親の性質に基づき、どのような体の形になるか、どんな髪の色になるか、というような情報を子どもに伝えていきます。膨大な情報は、一つずつDNAという物質に書き込まれて、子どもに伝えられます。この一つずつの情報の固まりを遺伝子というのです」

DNAについても、理解しておきましょう。

「DNAとは、デオキシリボ核酸という物質の略称です。DNAには、体を作るタンパク質や、体内の反応をコントロールする酵素などのタンパク質を作るための情報が、たくさん書き込まれています。このDNAを設計図として、人の体が構成されているのです。つまり、遺伝子の本体が、DNAなのです」

DNAという物質のところどころに書き込まれたタンパク質の情報の部分が、遺伝子です。遺伝子をDNAとして、精子と卵に乗せ、親から子どもへ受け渡すことにより、遺伝という現象が起きるというわけです。

「大人ひとりの体の細胞数は、約60兆個あります。そして、それはもともと、受精卵というひとつの細胞から、分裂を繰り返して増えたものです。つまり、60兆もの細胞一つひとつが、同じDNAを持ち、そこに父親と母親からもらった遺伝子が存在しているのです」

DNAが受け継がれる鍵となるのは染色体

人の細胞のすべてに含まれ、親子が似る理由の根底となっている物質、DNA。その構造も、遺伝を考える上で、キーポイントとなります。「DNAは、2本の長い紐が、らせん状によじれたような形をしていることは、よく知られています。そして、その紐の間は、分子によってつながれています。イメージとしては、らせん階段のような構造です。紐同士をつなぐ分子は、塩基と呼ばれる物質で、アデニン、チミン、グアニン、シトシンという4つの塩基の並びが、タンパク質の情報を決めています。そして、アデニンとチミン、グアニンとシトシンといういずれかの組み合わせで、ペアとなります」

この組み合わせが決まっていることが、実はとても重要なのです。

「なぜなら、二重らせんの片側の塩基の並びがわかれば、もう一方のらせんの塩基の並びも、指定できるからです。そのため、細胞分裂に際して、DNAを複製するとき、らせんが半分に分かれても、それぞれが正確に、容易に、元と同じらせん構造を作ることができます」

さらにDNAは、遺伝の多様性に関しても、重要な役割を果たします。「人のDNAのらせん階段は、約30億段もあります。人の体は、気の遠くなるような分子の組み合わせから設計されているのです。DNAは通常、細胞核と呼ばれる部分の中で、細いひも状に伸びています。しかし、細胞が分裂する前には、棒状に太くまとまります。この棒状になったものを染色体と呼び、人の染色体の数は、46本と決まっています。この染色体こそが、親子の類似性のカギを握る存在です」

染色体の組み合わせが遺伝の多様性を生む

染色体は、同じ形のもの同士をペアとした「常染色体」22組と、X染色体、Y染色体という「性染色体」のペア1組でできています。

「性染色体は、その名の通り、性別の決定に関与しています。性染色体がXXというペアになると女性に、XYというペアになると男性になるのは、みなさんもご存じではないでしょうか。つまり、Y染色体は、男性にしか存在しません。人の生殖活動では、精子と卵から受精卵が作られます。精子には22本の常染色体と、X染色体、もしくはY染色体のうちひとつが積み込まれます。常染色体のペアは、父母から染色体を1本ずつ受け継いだもので、精子形成のときに、ペアのうちのどちらが積み込まれるか、またXとYのどちらが積み込まれるかは、50%の確率です。卵には、同様に22本の染色体と、X染色体が積み込まれるので、受精卵の染色体数が、46本(23組)となります。この一連の流れにより、母親似や父親似といった特徴が、子どもに表れてくるのです」

精子や卵の染色体の組合せの数は、2の23乗という天文学的なものです。

「さらに、染色体同士でつなぎかえという作業も行われ、母方と父方の配列が、混ざり合う構成になっています。そのため、兄弟でも、まったく同じ遺伝子の組み合わせを持つ可能性は、ほぼゼロと言えるでしょう。また、子どもを生んだ両親にも当然、それぞれ親がいます。つまり、子どもが親から受け継いでいる情報は、父と母、祖父と祖母……というはるかな歴史の中で、組み合わさってできたものなのです」

遺伝を理解するポイントは「種の連続性」と「多様性」

人間を含めたさまざまな生物は、その生物特有の形質(形態や性質など)を持っています。その形質が、子孫に伝えられる現象を遺伝と言います。そのため、親と子どもで生物の種類が異なることはなく、親と同じ形質を受け継ぐ子どもが生まれます。しかし、個々の生物には少しずつ違いがあり、「多様性」も認められます。

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