ほめることは人にどんな影響をもたらすのでしょうか。「ほめるとやる気はどれくらいアップする?」「記憶力に直接影響するの?」といったほめることの効果、さらに、やる気が湧いてくるほめ方について、ほめることに関する実験を行った、画層診断学、神経科学が専門の定藤規弘氏にお話を聞きました。

写真 自然科学研究機構 生理学研究所
大脳皮質機能研究系 心理生理学研究部門 教授
定藤 規弘氏
1983年に京都大学医学部医学科卒業後、94年に同大学大学院医学研究科博士課程内科系専攻を修了。米国NINDS/NIH客員研究員や福井医科大学高エネルギー医学研究センター生体イメージング研究部門助教授を経て現職。

ほめることで、覚えが良くなる」ことを、定藤規弘氏のグループは科学的に実験で証明しました。
定藤氏は、記憶には二つの要素があると言います。それ”獲得”と”定着”。簡単に言うと、知ることと、しっかり覚えることです。定藤氏は、ほめることが定着、つまり、しっかり覚えることに影響するのか実験しました。 まず48人の成人を対象に、30秒間のうちに決まった順番でキーボードを連続的に叩くトレーニングを行い、その指の動かし方を被験者に覚えてもらいます。そしてトレーニング直後に、その成績(時間内に叩いた回数)について「自分がほめられる」「他人がほめられる」「成績だけ示され、誰もほめられない」3グループに分け、それぞれのグループが翌日、何回叩けるかテストしました。
「この実験のポイントは、ほめる”だけ”で記憶の定着が良くなるのかを調べた点です。そのために、被験者のやる気アップにつながる可能性のある他要素は排除しました」と定藤氏。
「ほめるのはトレーニング終了直後だけにし、翌日のテストは抜き打ちで行いました。それは、トレーニング中にほめると、ほめら れた結果として『やる気が上がった』ことが記憶力に影響する可能性があり、また、テストが翌日あることを事前に伝えると、『良い点を取りたいというやる気』が結果に影響する可能性があるからです。ほめられた事実が直接、記憶力の定着につながるのかを調べたかったのです」
この実験では、トレーニングのときの成績と、翌日のテストの成績を比べました。その結果、自分がほめられたグループはそのほかのグループよりも、指をより上手に動かせる人の割合が約5%多く、ほめることが記憶力の定着に直接影響することを証明しました。
「私たちの実験は、ほめることが、たとえば年号を覚えるような暗記についても効果があると証明したわけではありません。あくまで指の運動機能についてだけ。しかし、ほめることが暗記などの記憶力アップにつながっている可能性は十分にあると感じます」

グラフ (左図)「自分がほめられる群」は、それ以外のグループに比べ、練習の最後のときよりも成績がアップしており、より“上手”に運動技能が習得・記憶できていることがわかる。また、「他人がほめられる群」と「成績提示のみの群」(ほめられない群)の2グループ間には大きな違いがない。

グラフ  人には食欲や性欲、さらに金銭欲などがあります。そして、それらの欲を満たすものを「ご褒美」と認識します。ご褒美を得るとうれしくて、また手に入れようとする。わかりやすいのはお金ですが、定藤氏はお金と”ほめ”がご褒美として同じ効果を発揮するかどうかを調べる実験も行っています。
「人は報酬を得ると、脳の線条体が反応します。たとえば、お金を得るとこの部位が反応します。そこで、お金を報酬にする場合と”ほめ”を報酬にする場合で違いが出るか比較実験したところ、線条体は同じ反応を示しました」
ほめられるとは他者から認められることで、「社会報酬」と言います。つまり、脳は金銭報酬と社会報酬、どちらも「ご褒美だ」と認識したのです。
ただし、両者には違いもあります。
「大きな違いは『誰が』ご褒美をあげたかという点。お金は誰からもらってもその価値は同じですから脳の反応も基本的に同じようなものですが、”ほめ”は誰にほめられたかで脳の反応が変わります。さらに、どんな意図でほめられたかという点も影響します」
また、定藤氏は専門分野と隣接する教育学からも引用してくれました。
ほめられることがご褒美として効果を発揮するには、4つの要素をクリアする必要があると言います。「誠実さ」「成功の起因をどこに帰するか?」「自律性」「能力と自己効力感」です。
「誠実さ」とは、ほめてくれる相手との間に信頼関係が必要ということ。関係性の低い人間からほめられても、ほめ言葉を素直に受け止められないと言います。二つ目は、何がほめの原因になったかということです。タブーは、「頭が良いね」というほめ方です。
「頭が良いのは、たまたまもらった天からの贈り物。それよりも、自分の行動で結果が良くなる可能性がある努力をほめた方がやる気は上がります」
そして三つ目は、自律的なやる気を出させること。ほめられたからがんばるのではなく、努力して結果が出ること自体を「うれしい」と感じられるようにすることです。
「ほめられることが目的になると、ほめられないとがんばれない”ほめ依存”を招く可能性があります。それを防ぐためには、自律的にやる気を出させるほめ方をする必要があります」
その具体的な方法が、四つ目の「能力と自己効力感」。簡単に言うと、自信を持たせることです。行動を具体的にほめて「自分はこれができる」と納得させられれば、自信が増し、自律的にやる気を出すことができます。
「能力があることを裏づけてあげるほめ方であれば、”ほめ依存”を起こさずに自律的なやる気を高められます。大切なのは『こう行動したから価値ある結果が出た』と、努力と結果の因果関係を説明してあげることです」
 信頼している人が適切なほめ方をすればやる気をアップさせられる一方、使い方を間違えると”ほめ依存”を引き起こす。そんな”ほめ”について、定藤氏はこう言います。
「”ほめ”は薬とよく似ています。たくさん与えれば良いわけではなく、飲み方を間違えると危険もある。しかし、正しく使えばきちんと効果を発揮します。記憶力の定着にもやる気にも影響するものだからこそ、相手をよく見て、 上手に使うことが大切です」

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