話を伺ったのは
おおた としまさ氏
育児・教育ジャーナリスト。麻布中学校・高等学校卒業。上智大学英語学科を卒業後、リクルートに入社。2005年に独立し、現在、育児・教育に関する執筆や講演活動を行っている。著書に『男子校という選択』、『中学受験という選択』(日本経済新聞出版社)など。

暗記は高度な知的作業のたまもの
中学受験が子どもにもたらすメリット。それは、中学に入る前、受験勉強を通して得られるもの。そして、入学した後、中学・高校の教育内容・システムから得られるもの。大きくこのふたつに分けることができます。まず、受験勉強を通して得られるメリットから話をしていきましょう。
中学入試の問題が、単に詰め込み型の知識量を問うだけのものではないことは、皆さんご存じの通りです。学校側も、知識だけが詰め込まれた"頭でっかち"の子どもを求めているわけではありませんから、そうなるのは当然のことと言えます。
ただ、入試問題を解くためには、その前提として暗記が必要ですし、単純な知識を問う問題さえできれば合格できてしまうケースがあるのも事実です。しかし、こうした一般にはあまりよくないイメージのある暗記という作業、実は子どもにとって非常に知的な行為と言えるのです。
中学受験で求められる暗記の量はかなりのものです。これを効率的に覚え、また、必要に応じて自在に取り出せるようになるためには、"点"として散らばっている膨大な事柄を"線"や"面"につなげて覚えることが求められます。「あれとこれは似ているから一緒に覚える」や、「このできごとが、あのできごとに影響を与えて、結果的にこうなったのか」などと、子どもの頭の中で情報の分類や整理、グループ化がなされるのです。こうした作業は、大人になっても役立つ"情報編集力"の基になります。
算数の文章題を解くことで得られる成果はわかりやすいですね。「これは『速さ』と『つるかめ算』を組み合わせて解く問題だな」というように、与えられた文章から、課題や自分のすべきことを発見し、そして、それを解決する。こうした"課題発見・解決能力"とでも言うべき力は、社会に出れば、あらゆる場面で必要になります。
就職試験で用いられる適性検査に、「SPI」というものがあります。この「SPI」の算数(非言語能力問題)、実は、中学受験の算数そのものなんです。つまり、中学受験の学習は、社会で求められる基礎的な力を養うことにつながるとも言えるでしょう。


戦略的に勉強・仕事をこなせるようになる
学習の内容そのものだけではなく、戦略的に勉強を進めていくための手順を習得する、というメリットもあります。
入試では、2〜3年後の志望校合格という大目標に向けて勉強をするわけですが、「○○中学に合格するには、1年後にはこのぐらいできないといけない。そのためには、3か月後のテストでこのぐらいの位置にいないとダメだ。でも、とりあえず1週間後の小テストで満点をとれるようにがんばろう」というように、大きな目標に対してスモールステップを設定するという習慣が身につくのです。これは、社会人にも求められるスキルですよね。当の子どもたちは、それほど意識しているわけではないかもしれません。しかし、社会に出たとき、「そういえば中学受験が原点だったかも」などと、思い当たることは多いようです。
さらに、たとえば四谷大塚ではテストが毎週あると聞いていますが、毎週のテストのために学習計画を立て、実行し、テストの結果を分析して、その後の学習に生かしたとします。すると、これはビジネスの世界でよく語られる、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)、いわゆる「PDCAサイクル」そのものになるのです。
子どもたちは、サイクルを通して「こうやると結果が出るのか」「このやり方はダメだったな」といったことを考えるようになり、ただ漠然と与えられた課題をこなしているだけでは、なかなか成果が上がらないことを学びます。これもまた、社会に出たときに必要になる力だと言えるでしょう


10~12歳の時期は脳の「ゴールデンエイジ」 
人間の発達という観点からも、中学受験はチャレンジすべきものです。「ゴールデンエイジ」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。これは、スポーツや外国語の習得などにおいて、小さな子どもの頃に、後の飛躍的な成長につながる基礎ができるという考え方です。同じことが中学受験でも言えます。
中学受験では、目に見えない概念的なものを理解して、推理し、論理的に思考することが求められます。脳科学や心理学の分野では、そうした抽象的なことを理解できるようになるのは、10歳くらいからだと言われています。
"見たり聞いたり"といった具体的な体験から学ぶのが7~11歳。10~12歳からは抽象的な概念を論理的に筋道立てて考えられるようになる。まさにその時期に中学受験で脳を鍛えれば、子どもの能力を大きく開花させることができるのです。
加えて、精神面の成長が期待できる点も見逃せないでしょう。単に"つらい勉強を乗り切る"という経験だけでも貴重なものです。しかしそれ以上に、子どもに"つらいものから安易に逃げようとする自分が許せない"という気持ちが芽生えること。これが実現できれば、簡単に妥協しない精神的にタフな大人に育ってくれます。
そして、親もまた、中学受験を通して精神的に成長するものです。中学受験生活を送っていると、さまざまな困難が繰り返し襲ってくることでしょう。そんなときに、子どもの力を信じ抜くことができるかどうか。これが問われます。同じ目標を持って、二人三脚でどうにか受験を乗り切ったとき、家族の絆はより確かなものになっているはずです。


高校受験がないことが多大なメリットに
それでは、ここからはふたつ目の中学入学以降のメリットについて話をしていきます。
まず挙げられるのは、高校受験がないこと。ただしこれは、「先取り学習ができて大学受験に有利だ」と言いたいわけではありません。高校受験があると、中学は高校受験に向けた"点を取るための勉強"に、ある程度シフトせざるを得ないというのが現状です。そうして入学した高校も、3年でなんとか大学受験に間に合わせる教育を行う学校がほとんど。結果として生徒は、3年ごと"点を取るための勉強"を行うことになり、大学の授業・学問に対応できなくなるのです。
一方、中高一貫校の教育はどうでしょうか。ディスカッションやレポート、理科の実験・観察などを実施して、生徒の興味・関心を惹く教育を実施している学校は少なくありません。私の出身校である麻布中学校・高等学校では、化学の範疇として、身近な食べ物をつくる授業があります。酵母でパンをつくる際に、先生から「パン生地をラップで包むのはなぜか?」といった問いが発せられ、生徒たちは「乾燥を防ぐため」「酵素を少なくするため」などと自ら考えて答え、日常、口にしている食物が「理論化学」「無機化学」「有機化学」のすべてを網羅した、総合化学の結集であることを理解していくのです。
これは、受験勉強とは切り離された、本質的な人間教育であり、大学、そして、さらにその先の将来を見据えた教育でもあります。こうした高校受験に縛られない中高一貫校ならではの教育は、中学受験生活で子どもが養った"情報編集力"や"課題発見・解決能力"といった思考力の土台を、一層強固なものにします。


世界で一般的な中高一貫教育
次に、教育学的な見地から話をしますと、学校教育は「初等教育」「中等教育」「高等教育」の3つに分類されます。初等教育は小学校、高等教育は大学で、中等教育は中学・高校の6年間のことです。中等教育の時期とは、子どもにとって思春期を迎えるときでもあり、それまで絶対だった親の価値観に疑問を抱き、自分自身の価値観を構築する時期でもあります。特に、14~15歳というのは、周囲の価値の押しつけに最も反抗したい頃であり、そんなときに高校受験というレール・型にはめられることは、自己の確立・自立を難しくします。
世界に目を向けるとどうでしょうか。ヨーロッパでは一貫型の中等教育が一般的です。アメリカでは、中学と高校が分かれている州もありますが、それでも、日本ほど高校受験が厳しいわけではありません。日本が「中学まで義務教育」という、高校受験が大きな影響力を持つ制度になった原因は、戦後の学制改革で、財政的に義務教育を中学までにせざるを得なかったためだと言われています。


"縦"と"横"に広がる中高一貫校の教育
思春期という観点では、中1から高3までの生徒がともに過ごすという点にもメリットがあります。特に男子にありがちですが、中2~中3と言えば、先生に逆らったり、いたずらをしたりと、まだ幼さが抜けきらない頃です。そんな彼らは不思議に思うのです。「高3の先輩たちは、なぜ素直に先生の言うことを聞いているのか」
しかし、次第にそれが"成長するということ""大人になるということ"だと気づくのです。そして、いくら先生に反抗的な生徒でも、先輩の言うことは素直に聞き入れるというケースもあるでしょう。中高一貫校では、こうした生徒同士の縦の教育力がはたらき、教師が厳しく指導せずとも、学校全体が落ち着いた雰囲気になるのです。
先輩・後輩という縦の関係以外に、同級生の横のつながりも教育力を発揮します。ともに学ぶ仲間は、やはり中学受験を乗り越えた子ばかりです。そこには、生徒同士を尊敬し合う風潮が生まれます。「受験で算数が得意だっただけあって、あいつの数学のセンスはすごい。でも自分だって歴史の知識では誰にも負けない自信がある」というような、一目置いた存在として相手を捉えるのです。これは、公立の中学・高校でも可能なことですが、中学受験というハードルをクリアした子が集まる集団であれば、敬意を持って接することができる友人と、より多く出会うことができるでしょう。


昔から行われてきた生きる力を育てる教育
中学受験の入学前に培われる力として、受験勉強を通じて、「スモールステップ」「PDCAサイクル」といった、社会で必要なスキルが無意識のうちに身につく、と述べました。それを土台に、子どもたちは中高一貫校が行う、大学や将来を見据えた教育のもと、自分なりに人生の夢や目標を見つけ、その実現に向かって努力する力を養っていきます。これこそまさに、社会に出ても通用する"生きる力"にほかなりません。
文部科学省が提唱する前から、中高一貫校では生きる力を養成する教育が、すでに行われていたのです。"中学受験を選択する"ということは、"生きる力を育む教育を受けることを選択する"ことだと、私は思います。

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