田辺新一先生の主な研究テーマは、人間が快適に過ごすことができて、かつ、省エネルギーの建築物をつくること。

「省エネと言うと、暑い夏でも冷房の温度設定を高めにするなど、人間が我慢して行うものというイメージですが、建築物の設計やデザインなどに工夫を凝らせば、我慢しないで快適かつエコな環境をもたらすことができます」

 たとえば、仕事をするオフィスについて、次のようなデータがあります。「アンケート調査によると、室温28℃を超えると7割の人が不快に感じると回答しています。企業が顧客からの問い合わせ電話などを受けるコールセンターで1年かけて実施した調査では、室温が25℃から28℃に上がると作業効率が6%低下するという結果になりました。これを取り戻すには30分の残業が必要ですが、残業時間の分だけ余計にコストを使うので、我慢の意味がなくなってしまいます。我慢ありきの省エネ対策ではなく、生産性を損なわない本当の省エネ対策が必要なのです」 どうすれば、このような事態に陥らずに省エネを果たせるのでしょう。

「オフィスの温度は、外気温によるものだけでなく、オフィス内のパソコン、照明器具、コピー機から生じる熱、あるいはそこで働く人々の体温などによって高くなります。まず照明ですが、東日本大震災後の電灯の間引き後に、約4000人のオフィスワーカーを対象に調査した結果、ある程度、照明を落としても、人間の眼などへの影響は少ないことが明らかになりました。照明を落とした分、照明の熱も減って室温が上昇しにくくなります」

 ほかにも、室温を下げる方法はいろいろあります。

「窓から入る光や熱を考慮して、熱が通りにくい窓を使用します。また、机やコピー機などを設置する位置によっても、体感温度を下げることが可能です。さらに従来なかった天井ふく射空調という新しい省エネタイプの空調を利用する研究も進めています」

 逆に、気温が低い冬場は、室内の熱を外に逃がさないことが大事です。

「住宅では6~7割の熱が窓から逃げますので、ガラスを2重にしたり、ガラスに特殊な金属を塗って断熱効果を高めたりします。また窓のサッシ部分も熱を放出しやすいので、改良を試みています」

 目標は、発電所からの電力供給が不要な、ゼロエネルギーハウスの普及。

「太陽光パネルを備えた家に、今まで述べたような工夫を集結すれば、冷暖房をほぼ使わずに、すべての電力を太陽光発電で賄うことができます。たとえ多少の空調を使ったとしても、冷暖房を使わない春や秋に電力を売れば、収支はプラスマイナスゼロです。昨年は大学対抗のゼロエネルギーハウスのコンテストに参加し、実際に実験住宅を建てました。2030年までに日本の住宅の半分程度をゼロエネハウスにすることが目標です」

 また、病院空間も研究対象の一つ。

「順天堂大学と共同で感染を防ぐ病室づくりに着手しました。まず、患者が手でよく触るところや、患者の咳やくしゃみなどの飛沫が飛ぶ範囲などを調べ、それらによって菌やウイルスが付着しやすい場所を明らかにします。それを受けて、病室内の家具や吸気口・排気口の位置を工夫したり、新しい空調方式を提案することで、菌やウイルスを効率的に除去できる医療施設を模索しています」

 ほかに、鉄道の駅や自動車のエアコン、学校の教室、宇宙服など、研究の幅は大きく広がっています。

「駅の研究では、駅の温度や湿度、人の流れなどを調べて、いかに冷房を使わず涼しい環境をつくるか、地下通路に自然の風が通るように改修するなど、実際に改善提案を行っています」

 学生は、企業と電話やメールでやりとりをして研究を行うことも多くあります。ドイツやアメリカなど海外のワークショップに参加することも。

「学生が普段、研究でやっていることは、会社での仕事に直結しています。ただ失敗をしても許される点が会社と異なります。大学では失敗を経験することにも大きな価値があるのです」



早稲田大学理工学術院
創造理工学部建築学科
田辺新一研究室

田辺 新一教授

田辺 新一教授
早稲田大学大学院にて博士 号を取得、
デンマーク工科大学留学やカリフォルニア大学バークレー校客員研究員などを経て現職。



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