些細な認識の違いで、さまざまな場所で紛争が起きています。しかし、それは遠い世界のことではありません。実は紛争や戦争をもたらすきっかけとしての、偏見や差別、迫害、抑圧などは、私たちの身の回りにも存在します。 今回は、理不尽な悲しみに巻き込まれた人々を描いた本を紹介しましょう。

 まず、低学年向けに、アメリカの奴隷のお話『クロティの秘密の日記』を。南部の屋敷で働く12歳の少女・クロティ。旦那様は〝奴隷が文字を覚えたら皮がひん剥けるまでムチで打つ〞と言いますが、隠れて文字を学び、自由を求め始めます。次は『アイヌ ネノン アイヌ』。著者の萱野氏が、自分の暮らしていたアイヌ民族の風俗や文化などを紹介します。彼らはうるわしい世界観や言葉を持っていましたが、明治以降の歴史は、日本人による迫害や弾圧の連続でした。それから、1970年代にモロッコであった実話をもとにした『みんながそろう日』。6人兄妹の次男アムラは、あることをきっかけに検挙され、投獄されてしまいます。彼が家族のもとに帰ってくるまでの物語ですが、社会の上層と下層における偏見についても描かれています。

  続いて高学年向けには、決してモーツァルトの楽曲は弾かないという世界的なバイオリニスト、パオロ・レヴィの背景を描いた『モーツァルトはおことわり』を。ナチス強制収容所からユダヤの人々が解放された1月27日は、ある音楽家が一切の演奏を絶った日でもありました。次は、突然、アメリカからやってきた、冷淡な性格のおじいさんと孫娘・レアのやり取りから、ホロコーストの傷跡を描いた『わたしは忘れない』。おじいさんの性格を形成してきた過去のつらい出来事を、レアは深く心に刻みます。『わたしのせいじゃない』では、ある男の子をみんなでいじめたことに対し、何かのせいにして「自分のせいではない」と言い張る子どもたちをイラストで描いています。最後は紛争や戦争で亡くなったり、悲しんだりしている人々の写真が出てくるのですが、高学年であれば、この前半と後半の、強烈な対比から、感じるものがあるのではないでしょうか。

 今回は少しタフなテーマですが、設定はユニークで、内容としては読みやすいのです。この機会にじっくり向き合ってもらえればと思います。

『クロティの秘密の日記』

パトリシア・C・マキサック【著】
宮木陽子【訳】

10年刊/くもん出版/ 1,500円+税
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奴隷として生きる少女が
自由を求める物語

アメリカ南部のお屋敷で、奴隷として働く少女・ クロティは、旦那様に内緒で文字を学び、日記 をつけています。ある日、いわれのない罪で奴 隷仲間のヘブおじさんが旦那様に殺され、クロ ティは「このままでいいのだろうか」と疑問を 抱き始めます。

『アイヌ ネノアン アイヌ』

萱野茂【著】
飯島俊一【絵】
92年刊/福音館書店/1,300円+税
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筆者の育ったアイヌ集落のかけがえのない文化や習俗を紹介しながら、日本人による支配や差別を静かに告発する一冊でもあります。

『みんながそろう日モロッコの風のなかで』

ヨーケ・ファン レーウェン&マリカ・ブライン【著】

野坂悦子【訳】

09年刊/ 鈴木出版/ 1,600円+税
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次男のアムラが投獄されたことで偏見や差別を受けながらも、力を合わせて生きる家族の物語。

『モーツァルトはおことわり』

マイケル・モーパーゴ【著】
マイケル・フォアマン【絵】
さくまゆみこ【訳】

11年刊/朝日出版社/ 1,900円+税
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強制収容所とモーツァルトの 悲しいつながり

決してモーツァルトの楽曲は演奏しないという、世界的なバイオリニスト、パオロ・レヴィ。その背景には、ナチスの強制収容所での悲しい出来事が……。収容されていた人々が解放された1月27日はある演奏家の人生を一変させた日でもありました。

『わたしは忘れない』

ヤエル・ハッサン【著】
金藤櫂【絵】
ダニエル遠藤みのり【訳】
08年刊/文研出版/ 1,300円+税
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どこか冷たい性格のおじい ちゃん。そのつらい戦争体験を孫娘のレアが受け継ぎ、心に刻む物語。

『わたしのせいじゃない ─せきにんについて─』

レイフ・クリスチャンソン【著】
ディック・ステンベリ【絵】
にもんじまさあき【訳】
96年刊/岩崎書店/ 900円+税
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絵本ですがイラストと写真のコントラストが非常に強く、人間の争いが持つ怖さを明らかに。

『シベリア抑留とは何だったのか─詩人・石原吉郎のみちのり─』

畑谷史代【著】

09年刊/岩波書店/ 740円+税
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絶望の結晶から生まれた 言葉のすごみ

詩人であり評論やエッセイでも活躍され ている石原吉郎さん。シベリア抑留と いう体験から生み出された言葉が、読 む者の心に響きます。

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