人間の永久歯は、虫歯や歯周病などで抜けてしまうと、二度と生えてきません。そうして失われてしまった歯を、手術で補うインプラントという技術が春日井昇平先生の研究分野。

「歯がないと、食べ物をうまくかめない、容姿が気になって生活に支障が出る、正しく言葉が発音できなくなるなど、いろいろと不便なことがあります。そこで、歯茎を切開して顎の骨に直接金属のインプラントを埋め込み、その上にセラミックスなどでつくった人歯を乗せて、一見、本物の歯と見分けがつかないくらい精巧に仕上げるインプラントの技法が、効果を発揮します」

 

  代わりの歯を人体に埋め込む、という発想自体は、はるか昔の古代ローマ時代からあったそう。

 

「当時はまだ、科学が発達しておらず、医療技術も未熟だったので、痛みを抑えることや、感染を予防することも不可能であったため、インプラントはあまり世の中に広まりませんでした。世界的にインプラントが盛んになったのは、1952年、スウェーデンでチタンという金属が骨と同化することが発見されてから。それによって、より安全に人工の歯を埋め込めるようになったのです。日本では1983年から骨と結合するインプラントが臨床応用されたので、比較的新しい分野です」  

 

一般には、高齢者などが失った歯を補う場合、入れ歯の使用を考えます。「入れ歯は、残った本物の歯に留め具などを引っかけて固定するので、残存する歯にダメージを与えてしまう欠点があります。インプラントならそうした影響はありません。また入れ歯は、自分の歯でかむ感覚があまりなく、食べ物をおいしく感じられないという声もありますが、高い技術を持つ歯科医が手がけたインプラントの歯は、かみ心地も本物の歯に近くなります」

一方、インプラントには解決すべき問題も存在しています。今、特に春日井先生が力を入れているのは、歯周病などにより顎の骨が少なくなったことから、インプラントの手術が難しい患者のために、顎の骨を再生すること。「失われた骨の再生は難しく、従来は骨に似た人工の無機材料を骨の代わりに用いることが模索されてきました。しかし、失われた骨の近くに、ある特殊な膜でスペース(空間)をつくってやると、骨が盛り上がって再生してくることがわかってきたのです」

たとえば腕や脚などを骨折すると、折れた骨が接合する過程で一時的に多くの骨が集まり、骨折前よりも太い状態になることがあります。

 「それと似たような原理で、骨の足りない部分に特殊な膜を張ると、その膜に向かって骨がせり出してくるのです(図1参照)。生体には底知れぬ自然治癒力があって、それを引き出すことも重視しています」

ただ、現状では、歯科医の資格があれば誰でもインプラントをできてしまう点が問題だと言います。

「歯科大学でインプラントを学ぶ時間はまだ少なく、知識や経験の乏しい歯科医が手術をして、患者に痛みや痺れなどの異常感覚をもたらすなどのトラブルになるケースも増えています。治療終了後、数か月から半年に一度再来院してもらい、治療した部位に異常がないかを調べるメインテナンスすることは重要です。日本のすべての歯科医が適切にインプラントを行えるよう、手術やメインテナンスの指針を定めて医療の質を均一化することは重要な課 題です」

また、インプラントにかかる費用はかなり高く、より安く治療できるようにすることも課題です。

東京医科歯科大学は、インプラント患者の症例数で日本トップ。海外からも注目されています。「韓国、中国、台湾、タイ、インド、エジプト、メキシコ、アルゼンチンなど、世界中から留学生が来ていますね」

学生を指導しながら、実際に外来患者へインプラントの手術を行う臨床医としても活躍している春日井先生。「ある患者さんからは、〝食事のたびに先生のことを思い出す〞と、お礼の手紙をもらいました。非常にやりがいのある仕事だと感じています」



東京医科歯科大学大学院
医歯学総合研究科
春日井昇平研究室

春日井 昇平教授

春日井 昇平教授
東京医科歯科大学歯学部卒業後、トロント大学歯学部ポスドクなどを経て現職。東京医科歯科大学歯学部附属病 院インプラント外来科長も務める。

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