右:『電車道』磯﨑憲一郎【著】/ 15年2月刊/新潮社/ 1,600円+税Amazonで購入
左:『桜の下で待っている』彩瀬まる【著】/ 15年3月刊/実業之日本社/ 1,400円+税Amazonで購入

北陸新幹線の開業が話題を集めていますね。今月は大人も子どもも大好きな鉄道にまつわる小説をご紹介しましょう。まずは彩瀬まるさんの『桜の下で待っている』。東北新幹線に乗って北へ向かう男女の人生の一場面を春の花とともに切り取った連作短編集です。大学生が宇都宮に移住した祖母を訪ねる「モッコウバラのワンピース」、デザイナーが郡山にある恋人の実家へ結婚のあいさつに行く「からたち香る」など、5編を収録しています。鮮やかな筆致で浮かび上がるのは、登場人物のふるさとに対する想いです。

   

たとえば「菜の花の家」は、法事のため仙台に帰る武文が主人公。変わってしまった故郷の風景を見ながら、武文は亡くなった母のことを思い出します。子どもへの情が深いだけに、注文も多かった母。〈ちっとも母さんを大事にしない〉と言われても、〈大事にするのが億劫だった〉と思うくだりに胸が痛くなります。でも、ある奇跡が起こる結末に頬が緩むのです。きっと親は子が期待するほど包容力はないし、子は親が期待するほど共感力はないのでしょう。だから100パーセントお互いを理解することはできないけれど、いつか一人の人間として受け入れられる日がくるだろうという希望を抱かせてくれます。     

 磯﨑憲一郎さんの『電車道』は、ある高台の町に流れる100年の時間と人々の営みを描いた長編小説。特定の主人公はいませんが、家を出て洞窟で暮らす元薬屋の男と、勤めていた銀行を辞めて突然政治家に立候補するもののあえなく挫折した男が話の軸になっています。選挙に落選した男が電鉄会社を設立し、洞窟男の住むかつては桑畑が広がる農村だったところに宅地を開発するのです。関東大震災や第二次世界大戦を経て、日本の社会はめまぐるしく変化していきます。     

最も心に沁みたのは、戦争で息子を失った電鉄会社社長が、桜の木の下で拾ったムササビの子を妻と一緒に育てるエピソード。〈手のひら大の、背中にはうっすらと黒い産毛が生えているが、腹側はまだ人間の赤ん坊と同じ湯気が出てきそうな桃色の柔肌〉の生き物が愛らしくてたまりません。夫婦とムササビの別れのシーンは切ない!〈その人に相応しい生き方というのは、どこかで待ち伏せている〉という洞窟男のセリフも印象的でした。




『駅物語』
朱野帰子【著】/ 15年2月刊/
講談社/700円+税
Amazonで購入

東京駅で働く人々と乗客が起こす「奇跡」の物語。年間平均乗降客数200万人の巨大ターミナルでは、酔っぱらいの暴力から人身事故までトラブルがいっぱい。それでも奮闘する駅員たちのプロ意識に胸を打たれる。





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