「目に見えない危険を解明して子どもを守る」

宮崎裕介氏(東京工業大学大学院准教授)夢をかなえるために大事なこと3つ

高校2年次に文系から理系へ進路を変更

宮崎裕介
1979年神奈川県生まれ。東京工業大学大学院情報理工学研究科情報環境学(機械系)博士課程修了。同大学院准教授。衝撃生体力学、傷害予防工学などを駆使して、衝撃が人体におよぼす影響を研究。公園や遊び場で発生する事故の原因究明と再発防止に取り組む。

小さい頃は公園の砂場で山をつくって水を流し、その流れをジーッと見つめているような子どもだったと親から聞かされたことがあります。物心がついてからも秘密基地をつくったり、てこの原理で石を飛ばす投石機を手づくりしてみたりと、小学生の頃ころから物づくりや工学系に興味を持っていました。

母が学習塾を開いていたので、本を読む、問題集を解くといったことが自然と身についたのも私の特徴かもしれません。小さい頃から読書が好きで、三国志の物語が一番のお気に入りでした。科学雑誌『Newton』のイラストページを眺めるのも大好きで、自動車の内部構造を示した図解などが載っていると心が躍ったものです。

小学生の頃はサッカーにも夢中になり、中学校、高校、大学と、部活動でサッカーを続けました。特に高校の部活動は厳しく、毎日練習に明け暮れ、修学旅行先でも練習を行っていたほど。おかげで、肉体的にも精神的にも鍛えられました。

私は地理や歴史が好きで高2までは文系志望でした。しかし、高校の途中から「建築がやってみたい」「機械系もいいな」と考え始めて、理系に転向。つまり、将来の進路について自分の考えがまだ固まっていない状態だったんです。ただし、負けず嫌いの性格のせいか、テストではトップをとりたいという気持ちだけはあって、勉強は続けていました。

そんな小学校時代の一大転機となったのが4年生のとき。Jリーグの開幕がきっかけでした。私はもともとウルトラマンや『ドラゴンボール』の孫悟空といったヒーローへの憧れが強かったのですが、当時のスーパースター、三浦知良選手の格好良さには一番衝撃を受けました。それからは「カズと一緒にサッカー日本代表として活躍する」ことが、私の夢になったのです。

それでも、サッカーの練習に時間をとられ、成績が伸び悩んだ時期もあります。けれど、高3の1学期で部活動を引退すると、「サッカーをやり切った!」という気持ちの踏ん切りがつき、勉強に打ち込めるようになりました。受験勉強を始めた当初は志望校の東京工業大学に合格する可能性はとても低かったのですが、猛勉強の末、受験直前にはA判定が出るまでに学力をアップさせることができました。

頭をけがする原因を調べる研究に挑戦!

幼少期は砂場での遊びに夢中になり、山をつくったり、水を流して楽しんだ。

東工大に入学すると、再びサッカー熱に浮かされて、部活動にのめり込むように。自分が大学で何を学びたいのか、何を学ぶべきなのか、将来は何になりたいのか、答えの出ない時期が2年ほど続きました。

転機になったのは、大学3年次。スポーツ工学の講義を受けたのがきっかけでした。スポーツ工学というのは、人体の動きを調べて、スポーツで身につける道具の材料や構造を改善するための研究などを行う分野です。サッカーを長年続けていたこともあって、その内ない容ように興きょう味みを覚おぼえ、4年ねん生せいのときにスポーツ工こう学がくの研究室に入りました。そこでは、専用の装置を用いてスポーツシューズの安定性を測定する作業を経験。「人の感覚」という曖昧なものを具体的な数値にする学問のおもしろさにますますひかれました。

私が大学院に進む頃には、コンピュータによるシミュレーション技術が発達してきて、私も頭のけがをシミュレーションする研究を始めました。もともとはスポーツへの興味からこの分野に進んだのですが、次第に複雑で謎の多い人体への興味が膨らんでいったのです。

人体に関わる分野を研究する上では、工学系の知識だけでは不十分な面があります。その部分を埋めるために、お医者さんのところへ話を聞きに行く機会も増えました。そうして、研究を進めているうちに「自分のやっていることはもっと社会に役立てられるのではないか」と考かんがえるようになったのです。

目には見えない危険を世の中に知らせたい

実験に使う子どもの人形や脳の模型。右の人形は生後6か月、左の人形は1歳の子どもとほぼ同じ重さ。

世の中で起きている事故の中には、一見すると大きな影響がないように感じられるものでも、人体に重大な損傷を与えるケースがあります。

たとえば、スノーボードをしている人ひとが誤って頭から雪の塊の中へ突っ込む事故が起きたとします。多くの人は、「雪はやわらかいから頭をけがすることはない」と考えるかもしれません。しかし、実際には、頭の内部に大きな傷害を負うケースがあるのです。何かに衝突したり、転んだときにどれぐらいの勢いで頭部が揺れたかによって、脳が受ける損傷が変わってくるからです。

人間の頭が激しい衝撃に遭うと、頭蓋骨とその内側にある脳の動くタイミングがずれます。すると、頭蓋骨と脳をつないでいる血管が切れて、頭の中で出血が起きる。これは人体にとってとても危険な状態です。特に赤ちゃんの脳は、やわらかい豆腐のようなものなので、脳が激しく揺れ動いただけで、重度の心身障害を引き起こす恐れがあります。

私たちが行った実験によると、生後6か月の赤ちゃんが1秒間に3回から4回、頭が往復するような激しい揺さぶりを受けると、脳で出血が起きることがわかりました。つまり、赤ちゃんが泣き止まないからと言って体を激しく揺さぶるようなことは絶対にしてはいけないのです。

研究の結果を明らかにし、目には見えにくい危険を説明して注意を促していく。これも研究者の重要な役目だと、最近は考えるようになりました。また実際に起きた事故を再現して原因を突き止め、事故を減らす研究にも取り組んでいます。

この研究では、子どもの体型や体重と同じくらいの人形を使って、さまざまな実験を行います。しかし、一口に子どもと言っても、年齢によって身長も体重も異なります。すべての人に当てはまる研究成果を出せるよう、さまざまな人形をつくって研究を行っています。最近では、3Dプリンターの技術が進化しているので、子どもの脳の型をつくって、衝撃を受けたときの脳の状態をかなり忠実に再現できるようになりました。

自分とは異なる能力を持つ人たちと協力する

海外の友人たちと撮影。さまざまな分野の人たちとの交流を通して、自身の視野を広げる。

日本で有数の研究機関として知られる産業技術総合研究所というところには、日本全国の医療機関から子どもの事故に関する情報が集まってきます。その情報をもとに傷害予防チームが組まれ、予防策が検討されているのですが、私もこのチームの活動に参加しています。これまでに遊具の設計や児童施設の床材の改善など、転倒による脳の損傷事故を少なくする対策を打ち出してきました。

傷害予防の活動では、お医者さんや設計の専門家など、幅広い分野のプロと協力します。自分の研究室にいるときとは異なる発見があり、たくさんの刺激を受けます。

研究者として専門分野の研究に全力を尽くすことは大切ですが、自分とは異なる専門知識を持つ人たちと協力する姿勢も欠かせません。それにより、自分の知識や能力を世の中に役立てるための道筋が見えてきます。

みんなも仲間と協力し合う体験を通して、自分の視野を、将来の可能性を広げてみてください。

父は生活態度に関して厳しい人で、サッカーチームのコーチとして指導を受けた時期もあります。ルールを守って規律正しく毎日を送ることの大切さを教えてもらいました。母とは、塾の講師と生徒として接する時間が長かったのですが、我が子をほかの生徒と平等に扱い、私が反抗期だった頃も同じ姿勢を貫いていました。自分が親になった今、母の公平で毅然とした態度はとても参考になっています。
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