右:『東京自叙伝』奥泉光【著】/ 14年5月刊/集英社/ 1,800円+税 Amazonで購入
左:『アップルソング』小手鞠るい【著】/ 14年5月刊/ポプラ社/ 1,600円+税 Amazonで購入

大人も子どもも物語に惹きつけられてしまうのは、誰にとっても人生は一度しかなく、本を読んだり映画を見たりしている間だけは自分以外の人間になれるから。今月は、読み応えのある一代記をご紹介しましょう。

まず、一人の女性報道写真家の生涯を通して戦後の日本とアメリカを照射した、小手鞠るいさんの『アップルソング』。第二次大戦末期に岡山で生まれた絵の好きな女の子・茉莉江は、なぜアメリカに渡り、フォトグラファーになったのか。なぜ〈私は、炎のなかから生まれてきたのです〉と語ったのか。茉莉江にまつわる資料を集め、関係者に話を聞く美和子の正体は?先の展開が気になって、ページをめくる指が止まりません。

左の頬から首筋に残ったむごたらしい火傷の痕、母の非業の死、初恋の人がくれたカメラ--。上を向いて咲くりんごの花のように、激動の時代を凛として生き抜いた茉莉江。もちろん架空の人物ですが、一つひとつの描写がいきいきとしていて、まるで実在した人であるかのように感じられるのです。茉莉江と美和子の関係が明らかになる結末も心に残ります。

『アップルソング』にはベトナム戦争、浅間山荘事件、日航機墜落事故といった歴史上の大事件が出てきますが、奥泉光さんの『東京自叙伝』は、明治維新にも第二次世界大戦にもバブル崩壊にも秋葉原通り魔殺人にも福島第一原発事故にも関わったという「私」の一代記です。そのすべてを経験したなら、百五十歳は超えているはず。現実にはありえない世界を小説ならではの方法で成立させています。

「私」は東京の地霊のような存在で、各時代を生きる人物の身体に憑依していくのです。人間だけではなく、動物にもなるところがおもしろい。たとえば『吾輩は猫である』のモデル猫でもあったと言うのですから笑ってしまいます。幕末の御徒組、帝国陸軍の士官、新興宗教の幹部……。生い立ちや職業はさまざまですが、6人の「私」には共通点があります。それなりに勤勉だけれども責任感はなく、自分が原因でひどい目にあった人がいても、ちょっと気の毒だと思うくらいで反省しないところ。読んでいくうちに「私」は日本人の総体ではないかとも思えてきます。語り口はユーモラスですが、鋭い批評性を持った刺激的な作品です。




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