左:『森のふしぎな生きもの 変形菌ずかん』川上新一【著】、伊沢正名【写真】/13年6月刊/平凡社/1,680円 Amazonで購入
右:『いつも彼らはどこかに』小川洋子【著】/13年5月刊/新潮社/1,470円 Amazonで購入

夏は、一年の中でも親子で自然にふれる機会が多い季節でしょう。海にも惹かれますが、川上新一の『変形菌ずかん』を読むと森を探検してみたくなります。変形菌という言葉は知らなかったのですが、南方熊楠が研究していた粘菌と同じものなのだそうです。キノコのように胞子をつくり、アメーバのように動きまわる。植物でも動物でもない、不思議な生きものの魅力が、美しい写真とユーモラスな文章で紹介されています。

ビールを注いだグラスのような形のツツサカヅキホコリ、瑠璃色に輝くルリホコリ、毛がもさもさしたモンスターみたいなヤリミダレホコリなど、変形菌はとにかく見た目がおもしろい。眺めていると、ファンタジーの世界に迷い込んだような感じがします。切っても死ななかったり、生活環境が合わないと眠ってしまったり、知れば知るほど謎めいている。熊楠が魅了されたのも無理はありません。めくっているだけで楽しい本ですが、観察の仕方や標本のつくり方も載っているので子どもの自由研究の参考にもなりそう。


不思議な生きものつながりでもう一冊オススメしたいのが、小川洋子の『いつも彼らはどこかに』。八つのお話が入っていて、いずれも動物が出てきます。名馬ディープインパクトの旅の付き添いとして選ばれた馬、絶滅して村のシンボルになった兎、少女がドールハウスの中で飼っているブロンズでできたミニチュアの犬……。彼らはペットのように親しくなれなくても、生きていなくても、気配だけで孤独な人を救うのです。

たとえば「チーター準備中」。主人公は動物園の売店で働いている女性です。彼女は大切な「h」を手放した過去があります。ある日、彼女はチーターの英名に失った「h」を発見し、少しでも時間ができるとチーターを見に行くようになる。チーターの目の縁から口元まで続く黒い筋を「ティアーズライン」というのだそうですが、「h」とは何かわかったとき、チーターの顔にある涙の跡のようなラインと、彼女の悲しみが重なり合います。

泣いていても、動物は何か言葉をかけてくれるわけではありません。でも、そばにいてくれるとホッとする。好きな生きものがどこかにいると思うだけでも気持ちが安らぐ。静謐で美しい筆致も忘れがたい小説です。




『パンダの死体はよみがえる』
遠藤秀紀【著】
13年5月刊/筑摩書房/819円
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解剖学者による「遺体科学」入門書。パンダの「偽の親指」に隠された驚きの事実とは? ハチ公の剥製標本は何を語るのか。生ゴミ扱いされてしまう動物の死体から新たな発見を成し遂げていくところに心躍ります。




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