今から10年前の2003年。大学の一研究室が製作した人工衛星が打ち上げられ、世間の注目を集めました。松永三郎先生が率いるチームは、この快挙をきっかけに2号機、3号機の打ち上げにも成功。衛星の運用によるデータ収集で、成果を上げています。 

費用にして数百億円ともいわれる人工衛星の打ち上げを可能にしたのは、宇宙工学の専門家として松永先生が胸に秘めていたある思いでした。「人工衛星の設計コンテストで、いくつ賞をもらっても、実際に作ることができない。設計で認められるほどに、虚しさが募ります。この分野は広大な宇宙を相手にするため、シミュレーションによる研究が多いのは仕方ありません。しかし、"実際にロケットや衛星を飛ばしたい"という気持ちは、ずっと抱いていました」 

松永先生が突破口を見い出したのは、アメリカの研究者とのディスカッションでのこと。「ドリンク缶サイズの人工衛星」というアイデアを知り、「手の平に載るようなものなら、もっと手軽に打ち上げられるのではないか」と考えました。「しかし当時は、宇宙空間で指令の電波をキャッチして、自ら情報収集を行うような高度な機能を超小型の衛星に組み込むのは不可能と考えられていました。それでも、"人工衛星を自分たちの手で!"という思いを胸に、学生たちと挑戦を始めました」 

試行錯誤の末でき上がったのは一辺10センチ、世界最小のサイコロ型人工衛星です。「CUTE-1」と名付けられ、ロシアからロケットに搭載されて打ち上げられ、10年経った今も活動を続けています。「国家プロジェクトのような完全分業体制でない分、開発から運用までをすべて学生たちと進めました。意志決定がスピーディだった反面、個人にかかる負荷はとても大きい。学生たちは電気、通信、機械など、幅広い分野を猛勉強しました。当時は、研究室に泊まり込むこともしょっちゅうでしたね」 

ロケットは打ち上げがうまくいけば成功と見なされますが、人工衛星の場合、その後がより重要。「CUTE-1」のときは、軌道上で安定して活動するようになるまで、約1か月かかりました。その間、衛星の状況を交代で24時間見守ったそうです。「日本の上空にある人工衛星が、次の周回を経て、同じ位置に来るまで約90分。受信内容に問題があれば、昼夜に関係なく、90分内で分析と課題解決を行わなければなりません。そうしないと、衛星は機能を停止してしまいます。学生にとっては、相当にプレッシャーのかかる毎日だったと思います。それでも、そうやって手に入れた知識と経験は、彼らの将来にとって、何物にも代え難い貴重な財産となったはずです」 

衛星開発と打ち上げは、回数を重ねるごとに機能が改良され、より高度なものへと進化していきました。現在は、日本の宇宙開発の最前線機関であるJAXA(宇宙航空研究開発機構)にも研究・開発の拠点を構え、東工大以外からも人材が集まっています。「現在、開発中の『TSUBAME』は50センチ角のサイズで、最初の衛星と比べると、100倍以上の体積になります。大きくして高性能にした分、打ち上げと運用を成功させるのが、格段に難しくなります。高いハードルを乗り越えるために、宇宙空間と同じ真空状態を機械で作って衛星の性能実験を行ったり、クリーンルームで作業を行うなど、学生たちと日夜努力を続けています」 

人工衛星やロケットは軌道を外れて機能が停止すると、それまでの費用や労力が水の泡と化すリスクがあります。そのため、「開発に対して厳しい目が向けられる分野」と、松永先生は語ります。「最先端のことをやろうとすると、先が見えず、ときには目的を見失いそうになる。それでも、宇宙に挑んだ手応えは、確かな実感となって残ります。この貴重な体験を、研究者としての自信と誇りにつなげてくれることを願っています」

東京工業大学 理工学研究科
機械宇宙システム専攻
松永三郎研究室
松永 三郎連携教授
松永 三郎 連携教授

 東京大学大学院工学系研究科航空学専攻修了。
現在は、JAXAの研究機関である宇宙科学研究所で教授を務める。

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