「太古からの地球環境変化を研究し将来予測に役立てたい」

阿部彩子氏(東京大学大気海洋研究所 准教授)夢をかなえるために大事なこと3つ

一冊の本が科学者への道を開いてくれた

生まれは東京ですが、父の転勤の都合で3歳から7歳までアメリカで過ごしました。今ほど帰国子女が多くなかったこともあって、日本に戻ってからは、まわりの生徒から変わった子として見られることが度々あったのを思い出します。流行に敏感なクラスメートたちは、アニメや歌謡曲などの話題で盛り上がっていましたが、そういった情報に疎かった私は、どこか輪の中に入れない気持ちを抱えていました。

その前に過ごしていたアメリカでは、肌や瞳や髪の毛の色が違う子たちが一緒に過ごしていましたから、人と違っているのは当たり前のこと。みんなと同じでないことを、アメリカではちっともマイナスに考えないのです。それでも、私はもともと性格が内向的ではなく、活発に外を走り回って遊ぶような子どもでしたから、精神的に追い込まれたりはしませんでしたね。

中学は、受験をして、中高一貫校のフェリス女学院に入学しました。アメリカ人によって創設され、キリスト教精神に基づく教育を行っている学校ということで、アメリカで幼少期を過ごした私にはなじみやすい校風だったと思います。6年間、器械体操部、器楽部に入ってのびのびと過ごしました。中2のときに読書の課題図書として読んだ上田誠也氏の『新しい地球観』という本は、その後の私の人生のきっかけとなった一冊と言えるでしょう。その本には、地球は表面をプレートと呼ばれる層で覆われていて、地球内部の熱によって少しずつ移動するという「プレート理論」について書かれていました。私は自分が住む地球の不思議にもひかれましたが、プレート理論は当初、突飛ぴな空想として学会から受け入れられず、提唱者となった学者たちが力を合わせ、あらゆる角度からこの理論の正しさを示していったという事実にも心を動かされました。

科学の研究者は実験室で孤独な作業をしているものと思われがちですが、実際にはすべてがそうではありません。私も研究者となってあらためて実感したのですが、あらゆる分野を専門とする科学者がそれぞれの研究成果を出し合あって協力することで、発見や発明といった新たな道が開けるのです。科学者にとってチームワークは、必要不可欠なものと言えます。

研究の成果を地球の将来に役立てたい

「フェリスは、世界で活躍する先輩を講演会に呼ぶなど、視野を広げてくれました」(阿部氏)

中学で読んだ本が研究者となったきっかけだと言いましたが、当時、理科なら何でも大好きだったかというと、そうでもありませんでした。教科書にあるのは、すでに完成した理論や法則ばかりで、それらをまるまる覚えるのは、暗記ものが苦手な私には退屈な作業だったからです。苦手意識を取り払えたのは、生物の進化について学んだときからでした。やはり暗記しなくてはならない事柄はありましたが、進化とは遺伝子が何代にもわたって繰り広げてきたドラマかもしれないと考えてみると、とても魅力のあるものに思えたのです。

高校では理科系の学問への興味がますますわいて、物理学者であった父の影響や、地球環境への興味が高まっていったことから、私は大学で地球物理学を学びました。物理学の分野の中でも、地球環境に深く関わって、研究成果を地球のために役立てることができるかもしれないという思いが、私の中にありました。

「地球温暖化」という言葉は今では誰でも知っているものとなりましたが、私が勉強を始めた頃は、まだ広く世の中に知られるテーマではありませんでした。東大の大学院でお世話になった先生のおかげで、スイスの大学に留学して研究員の一員となり、その関係でグリーンランドでの国際調査プロジェクトにも参加できました。

3000メートルの厚さの氷が研究の対象

グリーンランドへ調査に行った際、別の研究所から来た日本の観測隊と撮影した1枚。右から三番目が阿部氏。

グリーンランドや南極は、陸地が厚い氷の塊に覆われているのを知っていますか?この氷の塊を「氷床」と呼びます。厚さが2000メートル、ときには3000メートルにおよぶ氷の層に深く穴を開けて、採取した氷の成分を調べると、何万年も前に起きた気候の変化や氷床の移動の様子がわかるのです。世界中の科学者が協力して行ったこの調査プロジェクトによって、多くの貴重なデータが集められました。私がこの調査に参加したのは今から20年ほど前ですが、この頃から地球温暖化が地球にくらす人たちにとって切実な問題であると報じられるようになっていったのです。

その後、私は研究者仲間と協力して、データをもとに、10万年ごとに繰り返される氷床の変化をコンピュータ上で再現する試みに打ち込んできました。そして、実際にその仕組みを作上げることに成功しました。気候の変化のサインとなる氷床のメカニズムを説き明かす研究は、今後の地球の気候変化を正確に予知するために必要です。過去この気候を研究を通じて解明する私たちの仕事は、地球の環境を守る行為につながるものと信じています。

また、今は国連の中にある組織のお手伝いをして、科学者として地球規模の問題を国際社会に向けて報告する仕事も行っています。今後はきっと、政治家だけでなく科学者も、世界を正しく動かすオピニオンリーダーとして活動する機会が増えていくでしょう。

科学者にだって国語の勉強は必要

2007年にはノーベル平和賞も受賞した、地球温暖化について研究する機関・IPCC(気候変動に関する政府間パネル)にも参加。地球規模の問題を、科学者が中立の立場から調査し、見解をまとめている。

今年の5月、これまでの研究の成果を認めていただき、自然科学分野で業績を挙げた女性科学者に贈られる猿橋賞を受賞するという栄誉に恵まれました。私がいただいてよいのかという思いもありましたが、困難にぶつかってもあきらめないで研究を続けてきてよかったとも感じています。

私がこの賞をいただけたのは、女性科学者である歴代の受賞者たちが道を切り開いてくださったから。私も先輩に負けないように、これからも自分にできることに力を尽くそうという気持ちになります。と同時に、これからの世の中を変えていく若い人たちの力となれる自分でもありたいと願っています。

ちなみに、私には3人の子どもがいます。子どもが力をつけ成長していく原動力となるのは、結局は本人の意志と努力です。親はその手伝いがほんの少しできるだけだと、私は思います。ですから、本人の自主性と選択を尊重しています。が、目の前の嫌なことから逃げだそうとしている場合には、どんな学びも必ず役に立つときが来るということは伝えるようにしています。たとえば、私のような科学者には国語の学習が要らないかというとそんなことはないのです。論文を書いて自分の研究を正しくわかりやすく人に伝えるには国語力が何よりも大事になります。今の好き嫌いだけで自分の可能性を狭めてしまわないようにしてください。

母はアメリカから帰国後に、日本の小学校の雰囲気に今ひとつとけ込めない私のことを気遣って、励ましてくれました。同時に、せっかく身につけた英語を忘れてしまわないようにと、アメリカ人が集まるサークルなどへ連れて行ってくれたりもしました。父は企業の研究職から大学へ移った学者でしたから、理科や物理について、私が質問するときちんと答えてくれました。本を買ってくれたり、わからない事柄の調べ方を教えてくれたのも、今はありがたく感じます。
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