電気をつくる微生物を利用して
エネルギー問題を解決したい

中村龍平さん(東京大学大学院工学系研究科 応用科学専攻 助教・理学博士)

夢をかなえるために大事なこと3つ

サッカーと勉強を両立させた少年時代

高校時代は、サッカー部の活動に明け暮れていた。「一番右が私です。ポジションはディフェンスでした」(中村氏)。

母親が保育士だったので、子どもの教育に対して、早くから「心身ともに鍛えて育てたい」と考えていたようです。小さいうちから、野球や水泳などを試しに経験させられたのですが、僕自身がサッカーに一番興味を示したので、4年生の頃からは少年チームに入るようになり、中学、高校時代を通じてサッカーを続けました。放課後は夜になるまで練習して、週末は試合漬けという日々でした。

うちの親がすごいのは、サッカーでくたくたになって帰ってきても、食事をすませて、夜8時頃から3時間は必ず勉強させるんです。疲れて2時間で眠ってしまったら、次の日の勉強時間が1時間増える(笑)。最初のうちはずいぶん反発しましたが、そのうちに勉強が習慣になり、家族旅行などで勉強をしない日は、なんとなく不安になるんです(笑)。どんなときでも、机に向かうのが苦にならなくなり、結果的に研究者への道を歩むことができたのは、親のおかげだと思います。

それでも、サッカーをやっているときは、「早くレギュラー選手になりたい」ということばかり考えていましたから、研究者になろうなんて、一度も思ったことはありませんでしたね。

理系の大学に進みたいと考えたのは、高校で物理を学んだからです。たとえば、動いている台車があったとして、力を加えなければ止まってしまう。これは「慣性の法則」で説明できますが、自分の身の回りにある現象の仕組みに、このように明確な説明が与えられる、物理学という学問のすごさに衝撃を受けたんです。それに、「親元を離れて生活して、いろいろな人に出会ったほうがいい」という親のすすめもあり、故郷の北海道を出て上京し、東京理科大学に進学しました。

世の中に役立つ研究を一生の仕事に決めた

大学では理学部化学科に籍を置いて、化学分野を勉強しました。4年間の勉強のあと、さらに学びたいという気持がわき、北海道大学の大学院に進学しました。私が入った地球環境科学研究院で取り組んだのは、植物の光合成を人工的に行う仕組みの研究でした。光合成では、二酸化炭素からでんぷんをつくりますが、光を利用して、世の中に有用な物質を生み出せないかという取り組みです。地球の人口増加によって、今後、ますますエネルギー問題は深刻化するはずです。自分がこれまでに身につけてきた知識を、世の中に役立てられるかもしれないという実感を得たのは、この大学院時代でした。高校や大学の受験勉強とは違う頭の使い方というか、とても創造的なことをしている感覚で、研究者として生きていこうという気持ちになったんです。

北海道大学で2年間の修士課程を修めたあとは、大阪大学の博士課程で、3年間を過ごしました。このときは、主に電気に関する勉強に励みました。光を使ってエネルギーをつくり出す仕組みを考えるには、どうしても、電気の専門知識が必要になるからです。博士号を取得して、今度はアメリカへ渡りました。28歳のときのことです。世界の最先端である国営研究機関に入り、研究者として1年間働きました。

100年前の論文から見つけた研究テーマ

アメリカ時代、人工光合成分野の世界的権威、Heinz Frei教授(左奥)と会食したときの一枚。

アメリカの研究機関で働いた経験は、研究者として、大きな転機になりました。それまで日本で研究を行っていたときとは、180度異なる物の見方や考え方を手に入れることができたからです。アメリカの研究者たちの考え方に衝撃を受けたのは、彼らと働き始めてまもなくの、ディスカッションがきっかけでした。私が、ある有名な研究者が唱えた説を取り上げて、「この学説を証明してみたい」と言ったところ、すぐに意見を返されました。「君の考え方は実に日本的だと思う。一人前の研究者として認められたいのであれば、他人が見つけたテーマを借りてくるのではなく、君自身が、独自のテーマをまず発見すべきではないだろうか」。

私は、目から鱗が落ちる思いがしました。本当にその通りだし、難しいけれども、まだ誰もやっていないことに挑戦する価値があると感じたのです。また、アメリカでは、研究者どうしの序列にこだわることなく、自由に意見を交換しあえる雰囲気があります。ノーベル賞を獲った研究者がすぐ隣のデスクに座っていたり、一緒に食事をしながら気軽に話をすることができるんです。アメリカでの経験を機に、枠にとらわれることなく、自由に発想する研究姿勢を身につけられて、本当によかったと思います。

東京大学の研究機関に助手として帰国してからも、私は自分の研究を進める環境に恵まれました。東大での私の先生が「君のやりたいことをやっていい」と言ってくださったのです。そこで、自分自身の研究テーマを見つけるために、毎日のように図書館へ通ったり、さまざまな分野の専門家のもとを訪ねて話を聞いたりしました。自分が全力で力を注げるテーマを必死に探して、ようやく見つけたのが、およそ100年前に英国で発表された研究論文でした。それには、電気を発生する微生物のことが書かれていました。光を使ってエネルギーをつくる研究を行う過程で、電気についても学んでいたため、とても興味を引かれたのを覚えています。

よりよい未来をつくる科学のすばらしさ

海底にある、煙突状の熱水噴出口「チムニー」。ここから噴出するエネルギーを微生物が食べている。

さらに調べを進めているうちにたどりついたのが、現在の研究テーマです。海底深く、太陽の光も届かない3000メートルの下には、海底火山があります。地球の内部にある高温のマグマが噴き出すその場所は、マグマと海水が岩石によって隔てられており、電池のような状態になっていることから、電気エネルギーが発生しているのです。

そして、この電気を体内に取り入れて、ブドウ糖などのエネルギーをつくり出している微生物がいることも突きとめました。私たちが普段使っているコンセントの電圧は100ボルトですが、この微生物は、0.1ボルトという、わずかな電圧でエネルギー源を生み出せるのです。この微生物の活動の仕組みを解明して応用できれば、省エネによる、質の高いエネルギー変換システムが実現できるはずです。

現在取り組んでいる研究が実用段階にいたるには、まだまだ時間を要することになりそうですが、必ず世の中の役に立てたいと思っています。

ちょっとした発想から出発して、多くの人たちの生活を変えたり、人に感動を与えたりといったことができるのが、科学のすばらしさ。この奥深く魅力的な科学の世界に、みんなの中から、ひとりでも多くの人が進むことを、心から願っています。

どんなときでも、毎日の勉強を習慣付けるように導いてくれた両親。母が保育士だったので、大勢の子どもを見てきて、教育に対する考え方を深めていたのかもしれません。そのほか、小さい頃から偉人の伝記を読み聞かせてくれたり、図鑑を買ってくれたりもしました。かといって、「この人のようになりなさい」とか、「こういう仕事に就きなさい」と言われたことは一度もありませんでした。自分で考える力を身につけさせ、進路について自分で考えさせてくれた両親に、とても感謝しています。
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