第9回

『きつねのつき』

北野勇作【著】
11年8月刊/河出書房新社/ 1,680円
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『馬たちよ、それでも光は無垢で』

古川日出男【著】
11年7月刊/新潮社/ 1,260円
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震災から1か月、作者は出身地・福島県を訪れ、被害を目の当たりにする──。東北を舞台にした自身の長編『聖家族』の主人公も登場し、現実と架空が交錯する物語。

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』

ジョナサン・サフラン・フォア【著】、近藤隆文【訳】
11年7月刊/ 2,415円/ NHK出版
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全米でベストセラーとなり、9.11文学の金字塔との呼び声も高い本作。写真や文字の見せ方を工夫するなど、ヴィジュアル・ライティングを取り入れたことにも注目だ。


北野勇作の『きつねのつき』は、一見、子育てをする父親のほのぼのとした日常を描いた小説です。語り手の〈私〉と2歳の娘・春子のやりとりを中心に、物語は進んでいきます。「子供館」を「どもかん」としか言えなかったり、オバケを怖がっているかと思えば一緒に遊びたがったり。春子の言動は可愛らしく、それを見守る〈私〉の眼差しも優しい。けれども、親子が暮らしているのは〈肉の津波〉に呑み込まれた町であり、〈私〉の妻も変わり果てた姿になっていることが少しずつ明らかになっていくのです。

夜の子供館で開かれる先生たちのお遊戯会、ご近所トラブルの恐ろしい顛末、秘密の保育園面接……町では奇妙な出来事が次々と起こります。やがて〈肉の津波〉をもたらしたものが何かわかったとき、発生から半年以上経っても収束していない原発事故のことを想起せずにはいられません。大きく損なわれ、いびつに変容した世の中で成長していく春子に、3・11後の日本の子どもたちを重ねてしまい、やりきれない気持ちにもなります。

でも、春子は見聞きするもの、触れるものすべてに興味を示し、日々自分の中にある世界を更新していく。泣いている親を笑わせもする。子どもが持っている力ってすごい!安易な希望は提示していませんが、生き生きとした幼子の目線に寄り添うことで、かすかな光が感じられるのです。

古川日出男の『馬たちよ、それでも光は無垢で』は、福島出身の作家が被災地に行って見たものを、リアルタイムで記した作品。散乱したレコードの破片、傷ついた馬と猫が一緒に暮らす厩舎、おにぎりや弁当が入ってこないコンビニに残された、ホワイトデー用の菓子など、報道では伝えられない情景が心に残ります。

東日本大震災の遺児は、1100人を超えたそうです。理不尽な災害によって大切な人を奪われた子どもの悲しみを浮き彫りにしたのが、ジョナサン・サフラン・フォアの『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』。主人公は9・11 アメリカ同時多発テロで父親を亡くした10歳の少年です。彼は、父の部屋で発見した謎の鍵に合う錠前を求めて、ニューヨークの街を冒険します。全体的に語り口はユーモラスですが、ラストの写真が連続するページは、涙なしには読めません。

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