第18回
キレる子どもを生み出す、後ろ向きの本能
  

"モンスターチルドレン"は本能が過剰反応している!?

 子どもが「キレる」。こんなネガティブな言葉が聞かれるようになって、久しく経ちます。近年は、キレやすい子どもが増えていると言われており、先生を見下したり、自分の非を認めず相手を攻撃したりする子どもは"モンスターチルドレン"と呼ばれています。

 「キレる」というのは、要するに感情が制御不能になることであり、脳科学的に言うと、過剰な自己保存本能を抑えきれず、攻撃的になってしまう状態です。なぜこのような状態に、陥ってしまうのでしょうか。それを考えるためには、まず脳の本能について知らなければいけません。

 「生きたい、知りたい、仲間になりたい」「自己保存、統一・一貫性、自我」「違いを認めて共に生きる」……。脳はさまざまな本能を持っており、いずれも生きていくためには必要不可欠です。

 これらの本能が、普通に働いている時には、キレるという現象は起こりません。問題は、本能が"後ろ向き"に働いてしまったときに起こるのです。

 たとえば、自己保存の本能だけが過剰に働いている、後ろ向きの状態になったとします。そうすると「他人を蹴落として自分を守りたい」「新しいことにチャレンジしないほうが自分を守れる」といった思考に捉われてしまいます。子どもの頃、いつもこの状態だったとすると、大人になったときに「チャンスを生かせない」「他人の言うことを聞けない」「周囲とうまくつきあえない」というような問題が起きるようになります。

脳の基盤となっている本能に由来する拒否は強固

 さらに、ふたつ以上の本能が、ネガティブに重なって反応してしまうと、周りの声はすっかり耳に入らない状態になります。

 いつも子どもを、否定している大人がいるとします。子どもは、「だめだな」「そうじゃない」と言われてばかり……。自分の意見と異なるものは、脳の統一・一貫性の本能に反するので、子どもはこの大人を好きにはなれません。さらに、こんな状況の中で、子どもが跳び箱を始めて飛ばなければいけないことになったとしましょう。

 怖気づいているときに、その大人が「こんなの簡単だよ。早くやりなさい」と言ったなら、もう子どもはチャレンジできません。自分を守りたい本能に加え、統一・一貫性や自我といった本能から、「自分が嫌いな人のいうことは聞きたくない」という反応がでるからです。本能は脳の基盤にあるため、この反応は非常に強固です。理屈抜きで、子どもは強い拒絶反応を示すでしょう。

 このように、状況に対し、いくつもの本能がネガティブに反応することが、子どもがキレる原因のひとつになっているのです。では、本能が後ろ向きに働くのを防ぐためには、どうすればいいでしょうか。そのためには、脳の持つ"前向きな本能"を、上手く引き出してやる必要があります。

親が細かに気を配ってやり子どもの本能を前向きに活用

 たとえば、子どもが何かに挑戦する場合、まずは「むずかしいよね。お母さんも、最初はうまくできなかったよ」など、共感の姿勢を見せてあげます。そうすると「仲間になりたい」本能が、前向きに働きます。さらに、「これができたらすごいね!」などと声をかけ、自我から生まれる自尊心を刺激してやります。

 そして「やってみる?」と問いかけ、子どもが自分から「やってみる!」という気持ちになることで、自己報酬神経群も働き、脳はさらに前向きになります。このように、意識的に前向きに本能を活用することで、子どもはポジティブに、物事に取り組めるようになります。親の気使い、やさしさで、子どもはいくらでも、能力を発揮できるというわけです。

 子どもは子どもなりに、友だちとの関係に悩むこともあるでしょう。周囲と意見が合わないと、自己保存の本能が高まり、周りを拒絶したくなるときもあるでしょう。しかしそこで突き放し、孤立させてしまっては、自己保存の本能ばかりが、過剰反応して、キレる子どもになってしまいます。

 脳には「違いを認めて共に生きる」という本能もあるのですから、人と違うのは当たり前なんだよ、あなたはあなたでいいんだよ、ということを、愛情とともに親が伝えてあげるべきです。

林 成之
1939年富山県生まれ。日本大学医学部卒。マイアミ大学の脳神経外科などに留学し、93年に日本大学医学部付属板橋病院救命救急センター部長に。2006年に日本大学の教授へ就任。 脳低温療法など世界的な発見で知られる脳科学の第一人者。最新刊『困難に打ち克つ脳とこころの法則』(祥伝社)が好評発売中。
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