「研究とは本気の"遊び" 自分の全てを注ぎ込みたい」

星美奈子さん(京都大学大学院医学研究科 准教授)

夢をかなえるために大事なこと3つ

塾の先生のDNAの話から生物に目覚ざめる

私が初めて生物の研究をしたいと思ったのは、小学校高学年のとき。当時通っていた塾の先生から聞いたDNAの話がきっかけでした。ワトソンとクリックが発見したDNAの二重らせん構造の話だったのですが、きっと先生自身がすごく興味のあるお話だったのでしょう。型どおりに教えられる学校の授業とは違い、ライブ感があって引き込まれていく自分に気づきました。何より、自分の身体がそんな精密なものでできていることにびっくりしました。それまで漠然と「生物が好き」と思ってはいましたが、初めて自分から勉強したいと感じた瞬間でした。

小学生の頃は、とにかく本を読むのが好きな子どもでしたね。特別理科が好きだったわけではありませんが、「自分がどうして他人と違うのか」「自分という生き物を定義づけていることは何か」といったことにすごく興味があったんです。その根本にあったのが、「死ぬのが怖い」ということ。小学校1、2 年の頃、漠然と死ぬのが怖くて眠れなくなることがありました。今の私からは想像もできないくらい内向的な女の子だったんです。

また当時、四谷大塚にも通っていましたが、あまり優等生ではありませんでした。自分の順位や志望校合格率といったことに興味がなく、当然成績もトップクラスではありませんでした。毎週出される課題に私が見向きもしないと、親が嘆いていたのを覚えています。「美奈子は本当にマイペースだ」と母親によく言われていたくらいです(笑)。

しかし、その後無事に桜蔭学園に進学。大学はどの学科に入ろうかと考がえたとき、小学生の頃から疑問に思っていた「"私"というのはどう定義づけられているのか」をちゃんと知りたいと思い、東京大学の理学部生物化学科かに入学しました。

自分の目指すべきテーマとの出会い

大学3年の頃、桜蔭高校時代の友人と沖縄へ。「旅行が大好きで、アメリカへ一人旅に行ったことも」(星さん)

大学を卒業し、大学院に進んでからは、生物を定義づけている「細胞」について研究しました。細胞とは、生きるにしても死ぬにしても、外部から入ってくる情報が細胞の中にたどり着かなければ、生死のスイッチを入れることはできません。それを調べる中で出会ったのが、現在の研究テーマである「アルツハイマー病」でした。みんなも名前くらいは聞いたことがあるかもしれませんね。

この病気は、わかりやすく言うと脳の神経細胞が死んでしまうことによって起こるのですが、実はまだ全容が解明されていません。私は、どうやって細胞に「死になさい」というスイッチが入ってしまうのか検証しようと思うようになりました。でも、それまでこの病気について詳しく知らなかったし、本に書いてあることは理解できるけれど、根本的な意味はわかりませんでした。まるで、地図もないままに新しい道を走っているような感覚でしたね。そこで私は、所属する学部とは別の医学部の教授に弟子入りさせてもらい、新しい知識を得ることにしました。

通常、皮膚の細胞は3週間くらいで生まれ変わるのですが、神経細胞は生まれてから死ぬまで分裂しません。つまり100歳ならば、神経細胞も100歳なのです。もちろん100歳の脳でもあと10年は元気そうな神経細胞もありますが、アルツハイマー病にかかると、神経細胞の状態が明らかに違う。見ただけでわかるくらい細胞が死んでしまっているのです。私にとってこの実験はとても発見が多く意味のあるものでした。

実は当時、研究室にこもりっきりの生活で、このままこの生活を続けていていいのかと真剣に悩んでいたのです。友達にも会いたいし、趣味や家族との時間も欲しい。それらを犠牲にしてまでも研究しなければいけないのだろうか……。中学から大学院までさほど悩まずに生きてきた私の人生の中で、初めて立ち止まり、「何をやりたいのか」をじっくり考がえているところでした。。

しかし、この衝撃的な実験のおかげで、自分の研究室の中だけではわからないことを体験できました。自分自身のバランスが取れ、研究者として向かうべき道がはっきりと見えたんです。何より自分は、わからないことを探求する研究という仕事が好きなんだと再確認できました。

研究者は小さな会社の経営者のようなもの

大学院卒業から1年後、教授の退官パーティで司会を行っているところ。「こういった経験は今でもとても役立ちます」(星さん)

研究というと、一人でじっと顕微鏡をのぞきこんでいるように思うかもしれません。でも、研究ではチームワークが大切なのです。私には現在4人のスタッフがいますが、それぞれ分担して、ひとつの研究を行っています。一人ひとりのスタッフが今何に取り組んでいて、どんなことで悩んでいるか常に把握することは、チームで研究する上で重要なこと。新しい発見があればみんなで喜ぶし、怒るときも悔しいときも一緒。全員で研究をしているのです。

また、研究者は研究だけをしていればいいというわけではありません。わかりやすく言えば、研究者は小さな会社の経営を行っているようなもの。お金を手当てしなければいけないし、予算をどうやって使うかも考がえなければいけません。スタッフへのお給料や新しい研究機材の購入費を考え、ときには節約のために古い装置を改良することもあります。研究全体のことを考え、バランスを調整することも、研究者としての大切な仕事なのです。

研究成果を次世代に引き継ぐことが課題

京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座アルツハイマー病研究グループのメンバー。月一回ランチをするほど仲がよいそう。

みんなは、研究の世界はすごくロジカル(論理的)だと思うかもしれませんが、始まりはとても感覚的なもの。「何となく、体はこういう仕組みで動いているんじゃないか? ならばこうやって実験してみてはどうだろう……」。つまり「仮説力」が必要なのです。問題発見能力や問題提起能力とも言うのですが、その力があるかどうかが何よりも重要。そして、自分が立てた仮説をもとに徹底的に検証していきます。もちろん、偶然の発見もありますが、やはりギリギリまで自分を追いつめ、新しい成果を出していくことが大切だと思います。

アルツハイマー病にはまだ治療薬がありません。それだけに、世界で最も注目を集めているジャンルのひとつです。自分の研究成果に、一般の方も含め、多くの人が関心を持ってくれることにとてもやりがいを感じています。もちろん、私が生きている間には病気の解明にたどりつかないかもしれません。だからこそ、後に続く若い研究者に引き継げる状態にしておかないといけない。それが一番意味のあることで、今後の目標でもありますね。

私にとって、研究は「本気の遊び」。今は、自分の力のすべてを使って研究に没頭しています。「のんびりマイペース」だったツケを、今払っているのかもしれません(笑)。


研究を続けてこられたのは、両親のおかげだと思っています。大学時代は研究に没頭するあまり、帰宅が深夜になったり帰らないこともありました。でも、両親はとがめることもなくやりたいようにさせてくれました。もともと科学の研究者になりたかった母親が後押しをしてくれたのが大きかったですね。父親としては、女子校、女子大に行ってお嫁に行って欲しかったらしいんですけれど(笑)。今の研究者としての私がいるのは、両親がおおらかな環境で育ててくれたからだと思っています。

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