「CO2削減の研究をしながら未来の人材も育成したい」

北川宏氏 (京都大学 教授)

夢をかなえるために大事なこと3つ

バッタ採りの名人が人類初の月面着陸に感動

小学校に上がるまでは大阪、その後住んでいたのは奈良です。子どもの頃は河川敷や田んぼへ行って、昆虫やザリガニを採って遊ぶ毎日でしたね。みんなから「バッタ採りの名人」なんて言われてましたよ(笑)。昆虫図鑑で捕まえた虫を調べるのがおもしろくて、ときには図鑑を持って虫採りに行きました。図鑑で見て、実物を見たり触ったりする。どちらが先であってもかまわないのですが、両方をやると「なるほどそうか」という発見があって、さらに関心がわくんです。

化学の研究者になってわかったのですが、子どものときに自分ぶんなりに発見をしたという経験が、今の仕事をする上で、とても役立ちました。日々の研究の中で、対象のちょっとした変化に新たな何かを見つけられるかどうかが、成功のカギになりますからね。

小学4年生のときには、アメリカが打ち上げたアポロ11号が月面に着陸しました。「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大いなる飛躍だ」。月の表面に初めて降り立って足跡を残したアームストロング船長の言葉には感動しましたね。それで宇宙に興味を抱くようになって、高校では天文部に入りました。

僕たちが子どもの頃は、未来に希望を抱くことができる対象がありました。今は、宇宙開発や最新科学といった分野で、みんながわくわくできるような話題が少なくなってきていますよね。景気の影響で宇宙探査機の打ち上げ予算が縮小されるという話を聞くと、残念に感じます。

子どもたちの科学離れを食い止とめ、日本の未来を救えるのなら、“はやぶさ”の打ち上げ費用100億円だって十分に元は取れるはずなんですから。

恩師との出会いで偏差値が35から80に

小学校低学年の頃の1枚。「学校の遠足でお弁当を食べているところだと思います」(北川氏)

中学時代は部活で水泳をやっていましたが、勉強のほうは全然しなかった。僕は暗記ものが嫌いで、「とにかく暗記しろ」と言われても、「なぜそうなるのか」という理由がわからないとダメなんです。だから、成績はよくなかった(笑)。それでも運よく県立高校へは進学できました。興味のあることしか勉強しようとしなかったので、大学受験では希望するところへは入れず、浪人生活をすることになりました。

予備校へ通い始めると、思いがけずすばらしい出会が待っていたんです。化学の講師の先生がとても優秀な方で、苦手な科目でも理解できるように基礎からわかりやすく教えてくださいました。京都大学で理学博士号を取得し助手として研究された後、高校教師を経て、予備校の講師になられた経歴の持主で、「基礎が大事。基礎を馬鹿にしてはいけないと、いつもおっしゃっていましたね。

その先生のおかげで、2年がかりではありましたが、化学の偏差値を35から80ぐらいまで伸ばせたんです。それで、尊敬する先生が学ばれた京都大学の理学部に、見事合格することができました。

大学でも、自分への刺激になる友人にたくさん出会ました。彼らは頭脳明晰で、浪人してようやく入った僕とはまるで違う。だからこそ、凡人の僕は彼らに追いつこうと必死で努力できたんだと思います。どんどん目の前の研究がおもしろくなって、大学院の修士課程へ進みました。

さらにその後、3年間の博士課程へも進んだのですが、それはある出来事がきっかけです。

研究室にこもり徹夜で実験を続けていたときのことです。いつもとは違う結果が出て、これが僕にはとても衝撃的な結果でした。今考えれば、たいしたことではなかったのですが、そのときの自分にとっては大きな発見だったんです。子どもの頃の、昆虫図鑑と捕まえた昆虫を見比べて、何かを見つけたときのような気持ち。「おお!」と声を上げたくなるほどの感動がこみ上げきました。それで、

企業との共同研究でCO2の大幅削減に挑戦

ロンドン留学時の1枚。女性は英国王立研究所の博士研究員で、現在はボルドー大の先生。フランス人の方だそう。

今、進めている研究のひとつが、厚数ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)の人工薄膜にCO2(二酸化炭素)と水素を吸い込ませて、アルコールをつくり出す仕組みです。企業との共同研究で開発を進めているところで、化学プラントなどで実用化されれば、年間50万トンのCO2を削減できる見込みです。

産業活動によって大量に排出されるCO2は、地球温暖化の原因とされ、CO2の削減は世界規模での課題となっているのはみんなも聞いたことがありますよね。CO2を回収して地中や海中に捨てる研究なども進んでいますが、CO2を活用して別の物質を生み出せれば、一挙両得の効果が生まれるわけです。

大学理学部の研究というと、これまではすぐに産業と結びつくテーマよりも、どちらかというともっと時間のかかる基礎研究のほうが重んじられる風潮がありました。大学と企業の研究は目的が違うという考え方が主流を占めていたのです。しかし、今後は産学連携( 大学と企業が共同で研究や事業を行うこと)での研究開発がさらに増えていく社会になるでしょうし、僕自身、どんどんそうなっていくべきだと考えます。大学の研究室では学生たちに対しても、「自分が取り組んでいる研究をどういうふうに社会に役立てられるか、常に考えるようにしなさい」と教えています。

社会に貢献できる人材を100 人育てたい

北川氏の研究室「京都大学 有機物性化学研究室」のメンバーと撮影。

大学は研究機関であると同時に教育の場でもあります。ですから、僕のもうひとつの使命は、身につけた知識や技術を社会に役立てられる人を一人でも多く育てること。

京都大学のような国立大学は、「国立」という呼び名からもわかるように、運営には国民の税金が使われています。そして、一人の学生が1年間学ぶためにおよそ300万円の税金が使われるのです。このことを言い換えるなら、大学は国民に「資金」を出してもらい、学生という「資源」を「世の中に役立つ人間」につくり上げていくということになります。ということは、それによって生まれる「利益」は国民に還元される必要があるのです。

僕がこの先大学にいられる時間は、定年退職までと考えると、あと16年。研究室には毎 年5、6 人の学生が入ってきてから、100名近くの人材を世に送り出せる計算になります。もちろん僕の力だけでは、彼らを本当に社会にとって有用な人材に育てることはできません。学生時代の僕がそうであったように、彼ら自身の出会いによる「化学反応」が、成長の大きな原動力となります。みんなも、これからの出会いや発見を、自らの成長の糧にしてください。


志望大学へ進学するため2年間浪人しましたし、大学院へ進んで博士号を取ったときには29歳になっていました。途中からは自分で生活費を稼いでいましたが、好きな道を進ませてもらったことには感謝しています。子どもの頃「ああしなさい、こうしなさい」と言われたことはありません。ただ、ふらりと本屋に連れていってくれたり、虫採りに夢中になっていたときに昆虫図鑑を買ってくれたりしました。両親とも教師なので、自然に知識を得ることのおもしろさを教えたかったんでしょう。
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