第10回
子どもを叱るときのひと工夫
  

子どもが嘘をつくのは脳の本能からの警告!?

先日、電車の中で、お母さんが小学生くらいの子どもを叱っている場面に出くわしました。

「あなたはなんでいつもそうなの!」

言葉をかけられた子どもはただ黙って、天井を見上げています。

「ちゃんと聞いてるの!」

聞いているのか、聞いていないのかわからないような我が子の状態を見て、お母さんはさらに怒りだしてしまいました。厳しい叱責を受け、ようやく子どもはそちらに顔を戻しました。

私はそこで、どうかお母さんが冷静になってくれるようにひそかに願いました。なぜなら、「聞いたふり」をしている状態の子どもに、さらに無理やり意思を押しつけようとすると、子どもは嘘をつくようになってしまうからです。

聞いたふりとは、脳の自己保存の本能からくる、ある種の防衛行動です。

小さいうちは特に自己保存の本能が強く、親の言葉であっても、厳しい怒りや批判の矛先が自分に向けば、心を守ろうとします。聞いたふりはその一例で、ここでさらに子どもになにかを押しつけると、今度は嘘をつくことで自分を守ろうとする、という段階に進んでしまうことが多いのです。

 ここで言っておきたいのは、これは子どものせいではない、ということです。"子どもは親の鏡"という言葉がありますが、 これはまぎれもない事実です。親の不用意な怒りが、子どもを追いこむことがあるのを知っておかねばなりません。

叱り方の特効薬となる言葉の"オウム返し"

それでは、子どもがなにか悪いことや間違ったことをした時、どのように導いてやるといいでしょうか。

キーワードは"オウム返し"です。

 たとえば、我が子が、勉強する時間に、隠れて漫画本を読んでいたことがわかったとします。ここで親はつい感情に任せ、

「ダメじゃない、今は勉強の時間でしょう」

と言ってしまうでしょう。しかしひとまず、その感情を抑え、なぜ漫画本を読んだのか聞いてみましょう。

「だって、どうしても続きが気になって」

その答えを、否定してはいけません。ここで、オウム返しです。

「そうだよね、おもしろい漫画って、続きが気になるよね」

否定ではなく、まず肯定から入ること。これが何より重要なのです。

この連載でたびたび説明している通り、否定することで子どもの自己保存の本能が働き、心に防波堤ができてしまいます。一度悪いイメージがついた物事はなかなか上手くこなせるようになりません。そうすると脳の前頭葉がもつ統一・一貫性の本能により、さらに物事が嫌いになってしまう……、という負のらせんに陥ってしまいます。

だから、子どもを注意する際も、まずはオウム返しに相手の言葉を受け入れてあげることです。

そしてその後に「でもね、今は勉強の時間でしょう。漫画はその後の楽しみにして、勉強を先にやらなければいけないよ」とい うように軌道修正してあげる。"オウム返し"が入るか入らないかによって、脳の受け取り方が大きく変わってくるのです。

 どんなときも一度肯定してあげるだけで、子どもの脳は、その働きが活性化された「肯定脳」へと変化していきます。性格だって明るくなります。

性格の明るい人の脳はいつも活性化している

 私が救急救命センターで脳治療を行っていたとき、経験的に学んだひとつのことが あります。それは、"性格の明るい人の脳ほど、回復が早い"いうことです。これは何も私の経験則だけではなく、性格の明るい人の脳にはドーパミンなどの活性系ホルモンがたくさん分泌され、脳はそれによって活性化される特性がある、という神経科学としての事実にも裏打ちされています。

 親も人間ですから、自分の機嫌が悪かったり、気持ちに余裕がなかったりするときもあるでしょう。しかし子どもを叱るときは、そのイライラをぐっと一回抑えることを意識し"オウム返し"を実践してみてはどうでしょう。そうすれば将来は、脳の力を引き出し、使いこなせる「肯定脳」の持ち主へと成長してくれるはずです。

林 成之
1939年富山県生まれ。日本大学医学部卒。マイアミ大学の脳神経外科などに留学し、93年に日本大学医学部付属板橋病院救命救急センター部長に。2006年に日本大学の教授へ就任。 脳低温療法など世界的な発見で知られる脳科学の第一人者。 著書に『勝負脳の鍛え方』(講談社)などがある。
脳科学のお話
頭をよくする方法はある?
こころは「ハート」、つまり心臓と英訳されていることからも類推できるように、頭とはあまりつながりが...>>続きを読む
お悩み相談室
内気な性格の娘は、解き方がわからない問題があっても...
積極的に塾の先生に質問をすると、自分の理解度や苦手分野を先生が把握し、より的確なアドバイスをもらえる...>>続きを読む
サイトマップ
人気記事ランキング
01 特集
そのひと言が子どもを変える! 学力を伸ばすほめ方・励まし方
02 スペシャルウィーク
9歳までに身につけたい国語力
03 子育てに効く脳科学のお話
頭をよくする方法はある?

サイト内検索
 

RSS登録
これまでの特集記事



気になる記事ピックアップ
これまでに公開された記事の中から気になる記事をランダムでピックアップし、表示しています。